小さなお家を持ったヤドカリさん |
ぼくたちヤドカリ三兄弟!! 名前はマーちゃん、ミーちゃん、ユーちゃん! ぼくたちは、父さん、母さんから一人ずつお家をもらっているんだ。 本当にうれしいです!! 「狭くても一人一人お家があるなんて幸せなことですよ。」と母さんがよく言っている。 何だか人間世界ではお部屋一つ借りるのにも保証人、敷金、礼金だの、収入は?年齢は?仕事は?などと、なかなか大変らしい。 ぼくたちは大きくなってお家が小さくなっても気に入ったお家があったら簡単に住み替えることができるんだ。人間世界ではお家を住み替えるにも、引越しとかで大変らしいね。 それに、お家を持つこと自体がとっても大変らしいね。 健康でお仕事が安定していれば借金ができるんだけど、30年とか35年とかずっとお金を支払っていかなくてはならないんだって。 最近ではリストラとかいうのもあって、お仕事が急に無くなってしまったりして、明日からの生活に保障がないんだって。 ぼくたち、マーちゃん、ミーちゃん、ユーちゃんはヤドカリに産まれて幸せだね。 ぼくたちを産んでくれた、父さんや母さんに感謝しなくちゃね。 そして、ひとりひとり立派なお家を持ったヤドカリに産まれたことを誇りに思うよ。 そういえばこの間、母さんは親戚のヤドカリの子供にめがけて、大きな足と手がヒュッと飛び出してきたのを見たんだって。「なんだろう?」と思ったら人間だったそうだよ。 ヤドカリを取りにきたんだ!! 人間の子供はヤドカリを連れて帰ると喜ぶんだって。 そして、アッという間に親戚のヤドカリの子供達が人間様につかまれて連れていかれたそうだよ。 親戚のヤドカリのお母さんとお父さんは大変悲しみにふけていたそうで、その場にいたぼくたちの母さんはどうしたらよいのか困ってしまったんだって・・・ すると、親戚のヤドカリのお母さんとお父さんは泣きながらこう叫んだんだって。 「私達ヤドカリは人間様に何か悪いことでもしたのか?何もしていないのに人間様に連れて行かれた子供たちは今ごろどうしているんだろうか・・・」と毎日毎日来る日も来る日も目を真っ赤にして泣きくずれていたそうだ。 そんなことがあったから、母さんはぼくたちが今日無事で生きていることを大変ありがたく思っているみたいなんだ。 人間の世界だって、子供がいなくなったり、迷子になったりしたら、大変な騒ぎになって、人間のお母さんは大変悲しむはずだよね。 ヤドカリの家族だって、子供がいなくなって悲しみにふけているんだよ。 親戚のヤドカリのお母さんは、今日も連れて行かれた子供達はみんな無事に遊んでいるのかと心配しているんだ。 一日も早く連れていかれたヤドカリの子供たちが無事でいることを願って、毎日毎日泣いているって。 ヤドカリの子供がのびのびと遊べる様な平和な場所になってほしいと親戚のヤドカリのお母さんが言っていた。 みんな生きているんだから、人間ともお友達になりたいと親戚のヤドカリの家族からの願いが聞こえてくるような気がした。 そんな悲しみにくれている親戚のヤドカリを見ていると、本当にぼくたち三兄弟は、家族があって、兄弟がいて、とても幸せだなと思った。 そんな時、ぼくたちは驚いた。 また、人間の大きな手と足がニュッとあらわれて、ぼくたちをつかみあげた。 ぼくたちは、「助けて!助けて!」と大声をあげて助けをもとめた。 でも、ヤドカリの母さんにはどうすることもできなかった。 そして、密かに身を縮めて逃げるしかなかった。 目の前でぼくたちが連れて行かれるのを助けることが出来ずに、悲しさで涙一杯にしていたのが見えた。 それから、1週間ほどたったが、ヤドカリの母さんはあいかわらず元気がなかった。 あの子たちはどうしているのかな・・・。 今何をしているのかな・・・。 来る日も来る日も頭から離れず、あの助けを求める子供達の声が耳の奥にこびりついている。 ヤドカリの母さんは、人間様はつかまえたヤドカリは売るか、自分で飼って楽しんでいるらしいということをうわさで聞いた。 けれどもヤドカリの母さんは人間様が大切に飼ってくれたとしても、本当の楽しさや幸せは家族と一緒に暮らせることだと思った。 人間様はこんなヤドカリの小さな幸せも奪いとってしまうのですね。 私のかわいい家族も引き離してしまったのですから。 私達ヤドカリは人間様のように大きな身体をもっていないけれど、小さいながらもひとりひとりお家を持って毎日毎日楽しく生きているんです。 一日も早く元気でいるこどもたちの声を聞きたい・・・。 ヤドカリの母さんの切なる思いだった。 |
このページの先頭へ | 動物昆虫メニューへ | 童話メニューへ | ホームへ |