おかあちゃんのミカン じいじ&ばあばホームへ
ブーン
「ん?」
ブーン、ブーン
「うわあ!ミツバチだ!こわいよー!」
「どうしたの?まさ坊」
「お、おかあちゃん、またミツバチさんが入ってきたよー!」
「そんなにこわがらなくても大丈夫よ、まさ坊」
「そんなことないよー、こわいよー」
「まさ坊はハチミツ好きでしょう?」
「うん、大好きだよ。でもミツバチさんはこわいよ!」

「まったく、まさ坊ったら。ほらこわがってないで、パンが焼けたから、たんとお食べなさいな。」
「はーい」
まさ坊は、いつものようにこんがり焼いたパンにたっぷりバターを塗りました。
そして溶けかかったバターのうえに、たっぷりハチミツを・・・
「あれ?おかあちゃん、ハチミツないのう?」
「そうだったね。今日あたりハチミツが届くと思うんだけど」
「えー!じゃあ今日はハチミツ無しのパンなのう?」
「しかたないでしょう。1日ぐらい我慢してね。まさ坊」
「う、うん。わかったよ。」

なんとなく物足りない朝食をすませたまさ坊は、まだまだ甘えたがりの男の子です。
「ねえ、おかあちゃん、まさ坊ねえ・・・」
「ごめんね、まさ坊。おかあちゃんもう行かなくちゃいけないんだよ。」
「今日もお仕事なの?おかあちゃんはお仕事休まないんだね。」
「そうだよ、ミカンだって毎日おかあちゃんの顔を見たいんだよ。」
「なんで?」
「まさ坊も毎日おかあちゃんと一緒にいたいだろう?」
「うん、もちろんそうだよ!おかあちゃんがいないとまさ坊さみしいもん。」
「そうだよねえ、みかんもおかあちゃんがいくと一生懸命においしいミカンになってくれるんだよ。」

「うん、わかったよ。おかあちゃん、いってらっしゃい!」
まさ坊は少しさみしかったけれど、グッとこらえておかあちゃんに大きく手をふりました。
おかあちゃんがニコッとして手をふりながらでかけていきました。
まさ坊はこのおかあちゃんのニコッが大好きでした。
おかあちゃんのニコッは、いつもまさ坊を包んでくれるようにあたたかく、とてもホッとするのでした。
まさ坊は、おかあちゃんを見送ったあと、こっそり家をでました。
実は、時々まさ坊はおかあちゃんの仕事している姿をこっそりかげからみていたのです。
みかんの木を見つめるおかあちゃんの目はとてもやさしく、いつもニコニコしています。
時々みかんの木に何か話しかけています。

そんなおかあちゃんをこっそり眺めている時間がまさ坊は好きだったのです。
しかし、そんな大好きな時間もあの音によって壊されてしまうのでした。
ブーン
「あっ、またミツバチだ!あっちいって!」
ブーン、ブーン
「もう、何でまさ坊のお家にはミツバチがよく来るんだろう!!」
ブーン、ブーン、ブーン
あまりにも、何度も近くをブンブン飛びまわるミツバチに、とうとう耐えきれずにまさ坊は急いでお家へ帰りました。
お家へ帰って、一安心のまさ坊。

「何だか、おなかすいちゃったなあ。そうだあ、去年とれたおかあちゃんのミカンが冷凍してあったんだ!」
慣れたようにまさ坊は冷凍庫の扉をあけて、ミカンを両手に抱えてテーブルの上に置きました。
「よし、これで少しとけるまで待っていよう!」
あたたかい日差しがのせいか、凍ったミカンはほどよくとけていきました。
「フーッ!もう、いいかな?それでは、いただきます!」
パクリ
「うーん、冷たくて、甘くておいしい!」
パクッ、パクッ

「きっとおかあちゃんの作ったミカンは日本一だ!」
パクッ、パクッ、パクッ
「あー、おなかがいっぱいだあ。なんだか眠たくなってきたよ」
テーブルの上にはミカンの皮の山。
そして、おなかがいっぱいになったまさ坊はいつの間にか、スヤスヤとねむってしまいました。
そして、日も暮れておかあちゃんが仕事から帰ってきました。
「まさ坊、まさ坊・・・」
「・・・う、うん?あっ、おかあちゃん、お帰りなさい!」
おかあちゃんは、ニコニコしてまさ坊にダンボール箱を見せました。

「ほら、まさ坊、おじちゃんからハチミツが届いたよ!」
「ん?ハチミツ?えっ、ハチミツ!!わーい!こんなにいっぱい入ってるよ!うれしいなあ!」
「よかったわねえ、まさ坊楽しみにしてたものねえ。」
「うん!待ってたんだ!あれ?写真が入っている。このおひげのおじちゃんだあれ?」
「この人がハチミツのおじちゃんだよ。」
「そうなんだあ。こんなにおひげがたくさんはえてたんだね。」
「まさ坊、これはおひげじゃなくてミツバチさんなんだよ。」
「えー、うそだよー!ミツバチさんならさされちゃうよー!!」
「ははは、大丈夫なんだよ。おじちゃんとミツバチさんはとっても仲良しなんだよ。」

「ふーん、でも・・・・・」
「・・・、それじゃあ、まさ坊、明日おかあちゃんと一緒に仕事にきてみるかい?」
「仕事って、みかん畑に行くの?」
「そうだよ」
「うん!おかあちゃんと一緒なら行くよ!」
「そう、じゃあご飯食べて、お風呂に入って、今日はゆっくりお休みなさいな。」
「はーい!約束だよ!明日一緒にみかん畑だよ!」

そして、次の朝。
「まさ坊、パン焼けたよー!」
「わーい、たっぷりバターを塗って、そしてハチミツもとろーりと・・・」
焼きたてのパンにのせたバターがほどよく溶けはじめ、それに溶けこむようにハチミツがしみこんでいきます。
パクッ!
「うん!おいしい!やっぱりパンにはハチミツがなくっちゃね!」
「まあ、まさ坊ったら。ハチミツのおじちゃんに感謝しないとね。」
「うん!ハチミツのおじちゃん、いつもおいしいハチミツありがとう!」
「さあ、まさ坊食べたら、今日は一緒にみかん畑に行く約束だよね。」
「うん、そうだよ!もちろんわかってるよ!」
まさ坊は、こっそりおかあちゃんの仕事を見ていたことはありますが、おかあちゃんと一緒にみかん畑に行くのは初めてでした。

まさ坊は何だかとってもうれしい気分でした。
「早く早く!この坂を登って行くんだよね」
「ああ、まさ坊、がんばってね。まさ坊も来年は小学生だもんね。一人で坂登って行けるかな?」
「うん!まさ坊、だいじょうぶだよ、男の子だもん。」
「そうだね、まさ坊は、男の子だもんね。それに、何て言ったってかあちゃんの子供だもんね。」
「うん!アッ!おかあちゃん、ミカンの木がいっぱい!かあちゃん、すごいや!空が真っ青だ!あれえ、海も見えるんだね。海もとっても青いね!どこまでもどこまでも青いなあ!ミカンの木って、こんな素敵な所で毎日海を見ているんだなあ!ミカンの木って何思って海を見続けているんだろうね。」
「そうねえ、きっとみんなに喜んでもらえるように青いお空やおひさま、大きな海に願いごとしてるのかもしれないね。ほらみてごらん、そろそろミカンの花が咲いてきているよ。」
「へえ、おかあちゃん、これがミカンの花なの?ミカンの花ってかわいいね。あ〜大変だあ!おかあちゃん、おかあちゃん、ミツバチがミカンの花に入っていくよ。」
「まさ坊、ミツバチさんが来たのかい。」
「どうしよう!ミカンの花がミツバチにさされるよ。」
「まさ坊、何にもしなくていいだよ。ミツバチさんをおどかしたらダメよ。」
「でも、ミカンの花がさされたら痛いでしょー。かわいそうだよ。」

「まさ坊、ミツバチさんはねえ、花から花へと飛んで、秋には甘い甘いミカンの実がなるようにおまじないしてくれているのよ。まさ坊も甘いミカン大好きでしょう。」
「うん、おかあちゃん!まさ坊ねえ、おかあちゃんが作ったミカン大好きだよ。ミツバチさんは甘いミカンがなるようにお願いしているんだね!まさ坊、全然知らなかったよ。」
「そうよ、ミツバチさんが来てくれるおかげでおいしいミカンが出来るんだよ。お礼にミツバチさんにミカンの花から甘い蜜を持って行ってもらっているんだよ。ミツバチさんはねえ、とっても働き者で、その蜜をハチミツをつくるおじちゃんに持って帰るんだよ。さっき、まさ坊もハチミツ大好きって言ってたでしょう?」
「うん、まさ坊ねえ、みかんもハチミツも大好きだよ。だって甘くておいしいんだもん。」
「そうよねえ、だからミカンの花がミツバチさんにさされる心配はないんだよ。ミツバチさんもミカンの花も仲が良くて、心が通じ合っているんだよ。」
「おかあちゃん、まさ坊とおかあちゃんもミカンとミツバチさんみたいに心が通じ合ってるの?」
「もちろんそうよ、まさ坊はおかあちゃんの大切な子供だもの。」
「そうかあ、おかあちゃんもやっぱり、まさ坊のこと大好きだったんだ。おかあちゃんもそう思っていてくれてうれしいよ。」
「まさ坊はね、おかあちゃんの大事な命だもん。まさ坊大好きよ。それにミカンもまさ坊と同じ位大事なんだよ。」
「そうかあ、それでおかあちゃんは台風の時も外に出てミカンを見に行ってたんだね。」
「そうよ、ミカンたちが無事かどうか確認しているんだよ。ミカンもおかあちゃんの顔を見て安心してくれるしね。」
「へえ〜、そうだったんだ。」
「台風の日だけじゃないよ。毎日、朝早くからミカン達の元気な顔を見て、ホッとするんだよ。」
「顔って、おかあちゃん、ミカンの木を見てわかるの?」
「そりゃ、この子はどこが強いか弱いかわかるよ。この子は足がちょっと長すぎるなあとか、この子は腰がずんぐりしてるなあとか、こっちの子は枝が頼りないなあとか、みんないろいろあるんだよ。」
「そうか、わかったよ!おかあちゃん何かひとりごと言っていると思っていたけど、ミカンの木とお話をしてたんだね。」

「あら、まさ坊聞こえてたのかい。」
「うん、まさ坊にも聞こえたよ。」
「ミカンは言葉は話さないけど、一生懸命に手をかけてやると喜んで今年もおいしいミカンになってやるんだっ!て、がんばっているんだよ。」
「うん!まさ坊ねえ、大きくなったらおとうちゃんやおかあちゃんみたいにおいしいミカンを作りたいよ!それでね、家族の写真を入れてみんなに自慢するんだ!あっ、そっかあ、まさ坊わかったよ!ハチミツのおじちゃんにとってミツバチさんは大切な家族なんだね。だからハチミツにミツバチさんのおひげの写真を入れてたんだ!!」
「まさ坊・・・。かあちゃん、まさ坊の話しを聞いてますますおいしいミカンを作ろうと思うよ。ありがとう」

「どうしたの?おかあちゃん。泣いているの?まさ坊もねえ、ミカンがとれてお別れするときはさびしいよ。だって大事な家族でしょう。」
「そうだねえ、おかあちゃんもさびしいよ。みんなに喜ばれているかな?って心配だよ。おいしくないなんて言われないように、毎日毎日心をこめて育てているよ。みんなにおいしいねって、喜ばれたときミカンもおかあちゃんもとってもうれしいんだよ。ハチミツのおじちゃんだってきっと同じだよ。みんなにおいしいハチミツだねって喜んでもらえるととってもうれしいんだよ。」
「そっかあ、心をこめて仕事するとみんな喜んでくれるんだね。もう決まりだ!まさ坊も大きくなったらミカンを作るよ!みんなに喜ばれるようにがんばるんだ!ミカンやミツバチさんとも心が通じるようにがんばらなくっちゃ!」

それからというもの、まさ坊はミツバチを恐がらなくなりました。
そして毎日おかあちゃんと一緒にみかん畑に行くようになりました。
みかんの木とお話したり、ミツバチさんを優しく見守ったりしていました。
目の前に広がる青い空、広い海を見つめてまさ坊は、こんなことを想像していました。
ミカン箱を空けるとそこには、ミカンの木に、おとうちゃん、おかあちゃん、大きくなったまさ坊がニコニコと寄り添っている写真が入っているところを。
自慢のミカンを、自慢の家族で、みんなにもニコニコをあげたい。
ちっちゃなまさ坊がおかあちゃんから教わったことは、大切な宝物となってまさ坊の瞳の中で空や海にも負けないくらいキラキラと輝いていました。

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