桜のつぶやき |
大きな立派な桜の木から何かつぶやきが聞こえてきます。 ああ、今年で私も50年間立ちっぱなしだなあ。 春男じいさんは、今年はまだ見えないようだなあ。 元気なのかなあ?さびしいなあ。 私のことを皆が見てくれる時は短いけど、皆喜んでくれるんだあ。 春男じいさんは、いつもこう言ってニコニコしてたっけ。 「ああ、今年もパアッときれいに咲いたなあ。春は一番だ!」 今年はいつ来てくれるのかなあ? 私もだんだん年を取ってきて、木の中に空洞が出来てしまったよ。 この先何年立っていられるかなあ? ずっと皆に喜んでもらいたいけど、先を考えると本当に残念だなあ。 今年も春男じいさんに、私のきれいな姿を見せてあげたかったけど・・・ その年春男じいさんはとうとう来ませんでした。 花が散り、緑の葉をつけ始めた桜の木は思い出したようにつぶやきました。 そういえば、去年春男じいさんとその家族がこんなこと言ってたなあ。 「おじいちゃん、桜きれいだねえ。来年もまた見れるといいねえ」 「ああ、この桜は私の楽しみだからなあ。毎年きれいに咲いてくれてありがとうなあ・・・」 もしかしたら、春男じいさん、あの時最後のお別れを言いに来たのかなあ・・・ 歩くのもやっとという感じだったしなあ・・・ 今年も見せてあげたかったなあ。 いやいや、来年も頑張ってきれいに花を咲かせれば、春男じいさんだってきっと見に来てくれるさ。 よし、生きている限り咲きつづけよう、喜んでくれる皆のために、春男じいさんのために。 古い桜の木がソヨソヨと風に揺られ、優しい葉の音を響かせました。 |
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