置いてきぼり |
わたしは冷蔵庫。 さっちゃんの家に来たのは、確か8年くらい前だったかなあ? その時は、みんなにすごく喜ばれたねえ。 何しろ、当時は最新式の冷蔵庫だったからねえ。 今でもあの時のみんなの顔を覚えているよ・・・ 「うわ〜!こんなに大きな冷蔵庫初めてみたあ!プリン何個入るかなあ?うわ〜」 さっちゃんは、まだ来たばかりのわたしを、目をキラキラさせながら見ていたね。 ママもわたしを使っては、こう言ってたなあ。 「あら、本当によく冷えるし、大きいし、使いやすいわあ。料理も楽しくなるわあ」 ところが最近では、みんな冷たいんだ。 「もう全然冷えないわ。壊れたのかしら?」 さっちゃんもすっかり大きくなってしまって、わたしのことなど見向きもしなくなった。 パパとママが何やら相談している。 「もう買い換えましょうかあ」 「そうだなあ、かえって電気代もかかってるかもしれないしな」 わたしのことを話しているのだとわかって、いろいろなことを考えた。 いつかはこの日がくることはわかっていた。 実際にその日がくると思うと少しさみしかった。 新しい冷蔵庫が来たら、わたしは一体どうなるのだろう? そして数日後の晩に、パパとママがわたしのところにやってきた。 「せえのお、よいしょ」 パパとママはわたしを持ち上げ、外へ運んで行く。 小さなトラックに乗せられた。 こんな夜中に、どこへ行くんだろう。 わたしは、最後のドライブにでも連れて行ってくれるのかな?なんて少し想像した。 トラックはどんどん人気の無い道を抜け、山奥へと入っていった。 トラックは止まり、パパとママはわたしを持ち上げた。 「ここならいいだろう、せえのお」 わたしは、暗い山の中に放り投げられてしまった。 パパとママはそのままトラックで行ってしまった。二度と戻ってこなかった。 8年間ずっと家の中にいたので、こんな真っ暗な知らないところへ置いてきぼりに去れて、さみしくて、こわかった。 あたりが明るくなり、散歩をしている人がわたしを見付けた。 「なんだ、またこんなところに冷蔵庫捨てて!ここはゴミ捨て場じゃないぞ!」 わたしは、必死になってパパとママが捨てたと言おうとした。 でも聞こえるはずがない。 散歩の人もブツブツ言いながら、行ってしまった。 またひとりぼっちになった。 わたしは捨てられたことを実感し、とても悲しくなった。 わたしが古くなったことはしかたのないことだが、今まで仲良くしてきたのに、何もこんなところへ捨てなくても・・・ 8年前のあの時を思い出す。 さっちゃんの笑顔。 ママの喜ぶ顔。 最後くらいちゃんとお別れをしたかったのに・・・ 朝になり、明るくなっていくと、わたしのまわりには、捨てられたテレビや洗濯機、仲間の冷蔵庫がたくさん横たわっていた。 |
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