孫の声 |
とある町の中にごくごく平凡な夫婦が暮らしておりました。 ある日のこと、お嫁にいった娘からの連絡で、この夫婦にも孫ができたことを知らされました。 「私達も若い若いと思っていたけれど、とうとう孫ができましたね」 「そうじゃのお、私達もじいじとばあばになるのかあ」 早速二人は、かわいい孫の顔を見に出かけていきました。 娘の家に着くとすぐに、孫の顔を見に行きました。 生まれたばかりの孫はスヤスヤと眠っていました。 「まあ、かわいい」 「ほんとじゃのう。目に入れても痛くないのお」 二人は、小さな孫の姿をほほえましく見つめていました。 すると、眠っていた孫が目をパチリと開いてあたりをジロジロと見渡していました。 そして口を大きく開けて何か言いました。 じいじとばあばはびっくりして顔を見合わせました。 「じいじさん何か言いましたか?」 「いいや、ばあばさんこそ何か言ったかいな?」 びっくりして周りをキョロキョロと見渡しましたが、誰もいません。 「きっと、ご近所さんの声でしょう」 「それとも、テレビの音かもしれんしなあ」 二人は落ち付きを取り戻して、かわいい孫の顔を見つめました。 「おじいちゃんとおばあちゃん?わざわざ遠くから来てくれてありがとう!とてもうれしいよ!これからもよろしくね!」 じいじとばあばは驚きのあまり声が出ませんでした。 「……きっと、娘のいたずらよね」 「ああ、きっとそうだ。昔からいたずら好きじゃったからなあ」 「おじいちゃん、おばあちゃん。どうしたの?何だか少し疲れているみたいだよ。少しゆっくりしたら。そのうちママがお茶持ってくるからね。ぼくも今たいくつだから少し話相手になってくれるとうれしいなあ」 「じいじさん、孫が孫が……」 「ばあばさん、やっぱり孫がしゃべってるみたいじゃ。これは一体どうなってるんだ?」 二人は大きく目を見開いたまま固まってしまいました。 「まあまあ、そんなに固くならないで、楽にしてよお」 孫は急に起きあがり、二人の肩をトントンとたたきました。 じいじとばあばは、口がポカンと開いたまま、力がすっかり抜けてしまいました。 「どう?かわいいでしょう?」 娘がお茶を持って部屋に入ってきた。 「かわいいも何も、この子は一体どうなってるんだ?」 「えっ?何かあったの?ほらこんなにかわいい顔で笑ってるわよ!きっとおじいちゃんとおばあちゃんが来て喜んでるのね」 「なあ、変なこと聞くようだが、最近の赤ちゃんは生まれてすぐしゃべれるようになったのかのう?」 「なあに言ってるの?お父さん!そんなことあるわけないでしょう。あいかわらずおもしろいこと言うのね」 「バブ、バブー」 それきり孫は普通の赤ちゃんに戻ったようでした。 「じいじさん、私達幻でも見たのかしら?」 「ばあばさん、夢でも見ていたのかのお?」 じいじとばあばは、ゆっくりと孫の顔をのぞきこみました。 無邪気にほほえむその笑顔はまさに赤ちゃんそのものでした。 「まあ、いいさ。きっと、私達にあいさつしたかったんだなあ」 「そうねえ、そうかもしれませんねえ」 |
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