不思議な歯 |
ちいちゃんは、いつものように子犬のシロをつれて散歩にでかけました。 「今日も天気がいいねえ、シロ!」 「ワン!」 ちいちゃんとシロはニコニコしながら、いつもの散歩道を歩きました。 「あっ、おはようございます!」 「ああ、おはようさん!」 いつも散歩の途中で会うお花に水をあげているおじいちゃんです。 「ワン!」 「おお、シロも元気だなあ。おはよう!」 ちいちゃんとシロとおじいちゃんはすっかり顔なじみです。 ある日のこと、いつものようにちいちゃんとシロが散歩にでかけ、おじいちゃん家の前につきました。 しかし、いつものおじいちゃんがいません。 そのかわり、おじいちゃんに似た別のおじいちゃんがいました。 ちいちゃんとシロはどうしたんだろうと心配しながら、家の前を通り過ぎようとしました。 「おお、おはようさん!」 ちいちゃんはびっくりしました。 いつものおじいちゃんの声が聞こえてきたからです。 どこに隠れているのかとあたりをキョロキョロみまわしました。 しかし、少しやせた顔をした別のおじいちゃんがニコニコしてちいちゃんのことを見ているだけでした。 シロは首をかしげながら、そのおじいちゃんのそばにいき、クンクンにおいをかぎました。 「ワン!」 「おお、シロ!おはよう!」 シロは、そのおじいちゃんに向ってしっぽをふって喜んでいます。 ちいちゃんは、そのおじいちゃんの顔をじっとみつめました。 「どうしたんだい、ちいちゃん」 おじいちゃんは、ニコリと笑いかけました。 「キャー!歯がない!」 「あっ、そうかそうか、びっくりさせてごめんね。おーい、ばあさんや、歯を持ってきておくれ」 中からおばあちゃんが出てきて、おじいちゃんに何かを渡しました。 おじいちゃんはそれを口の中へ放り込むと、口をモグモグさせました。 「ちいちゃん、これでどうだい?」 「あっ、おじいちゃん!いつものおじいちゃんだあ!えっ、でもさあ、おじいちゃんって、歯がとれるの?痛くないの?」 「ああ、痛くないよ。ほら」 おじいちゃんは、口の中へ手を入れると、また歯を取出してみせました。 「わあ!わたし、歯医者さん大嫌いなの!だって歯を抜かれると痛いんだもん!おじいちゃんって、すごいねえ」 おじいちゃんは、歯を口の中へ入れて、モグモグし、ニコッとして言いました。 「そうだねえ、歯医者さんはこわいねえ。おじいちゃんも大嫌いだったよ」 「いいなあ、その歯便利だねえ。わたしも欲しいなあ」 「何を言ってるんだい、ちいちゃん。こんな歯になったのは、小さい頃から好き嫌いばかりして、あまり歯も磨かなかったせいだよ。ちいちゃんは、自分の歯を大切にするんだよ」 おじいちゃんは長く話をしたせいか、歯がボロッと飛び出しそうになりました。 「あっ、おじいちゃん、歯が落ちちゃうよ」 「おっと……。ははは、ちいちゃんは好き嫌いしないで、ちゃんと歯を磨くんだよ。じゃないと、こんな歯になっちゃうよ」 おじいちゃんの歯は、また飛び出しそうになりました。 「フフフ。おもしろい歯だね、おじいちゃん」 「ワン!」 「おお、シロもおもしろいか。でもな、ちいちゃんもシロもこのことは見なかったことにしてくれな」 ちいちゃんとシロとおじいちゃんは、目を合わせてうなずきました。 次の日散歩に出かけると、おじいちゃんがニコリと笑いかけました。 おじいちゃんの口には、しっかり真っ白い歯が並んでいました。 ちいちゃんは、すこし笑いそうになったけれどちゃんと約束を守りました。 「おはようございます、おじいちゃん!」 「ワン!」 |
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