春のお散歩 じいじ&ばあばホームへ
おじいさんは、天気もいいので、ひさしぶりに散歩に出ることにしました。
川辺で少し小高いところに腰をおろしてその大きな川をながめていました。

「おじいちゃん」
小さな女の子が、声をかけてきました。
ふりむくと、その女の子のおかあさんと思われる女性が小さく頭をさげました。
「お散歩ですか?」
「ええ、そうなんですよ」

「おじいちゃん!お花がさいているよ!」
女の子は、おじいちゃんの手をひっぱって少し離れた場所へ連れて行きました。
「ほら、ここだよ!」
そこには野花がポッと一輪咲いていました。
「本当だ。きれいだね。ところでお名前は何て言うの?」
「ハル!」
「ハルちゃん」
「そう、ハルだよ」
ハルちゃんは、かがんでその野花を小さな手でつみとりました。
「はい、おじいちゃんにプレゼント!」
「おお、ありがとう、ハルちゃん」

「おじいちゃんも小さい時あったんでしょう?」
「ああ、おじいちゃんにもハルちゃんみたいに小さい時があったよ」
「ふーん、おじいちゃんはどんな遊びをしたの?」
「うーん、メンコをしたよ。おじいちゃん、メンコ強かったよー。そうだ、竹馬も乗ったねえ」
「ん?タケウマって、お馬さんのこと?」
「そうか、ハルちゃんは竹馬は知らないかあ。長い竹の棒に足をひっかける場所があって、そこに足を乗せて歩くんだよ」
「えー!ぼうに足をのっけて歩くの?こわくなかったの?」
「ははは、恐くなかったよ!楽しかったよ」
「へえー、あとは何して遊んだの?」
「そうだねえ、ビー玉もしたなあ」
「ビー玉ってどんなの?」
「ええとねえ、ガラスを丸い玉にしたやつだよ」
「ガラスで出来たまあるいボール?われないの?どんな風に遊ぶの?」
「ポン!と指ではじくんだよ」
「わあ、ハルにもできるかなあ?やってみたいなあ!」
「そう、やってみたいのか。たしか、おじいちゃんのうちにあるはずだなあ」
「わあ、いきたい!いきたい!」

それまで、そばでほほえみながら見つめていたおかあさんが驚いて言いました。
「どうもすみません、ごめいわくおかけしまして」
「こら!ハル。おじいちゃんにごめいわくでしょう!」

「いいやいいや、どうぞお二人で遊びにきてくださいな」
「でも、よろしいんですか?通りがかりのわたしたちみたいな親子を……」
「ええ、ばあさんも喜ぶと思いますから、ぜひ来てやってください」
「それじゃあ、ハル。おじいちゃんのおうちへ遊びに行こうか?」
「本当!?うん!行く、行く!!」
こうして三人は、おじいちゃんのうちへ向うことにしました。

「ばあさんや、お客さんつれてきたよ!」
「お客さん?はいはい、いきますよ。」
「こんにちは!」
かわいいハルちゃんが元気にあいさつしました。
「まあ、これはかわいいお客さんだこと。ささ、おあがりなさい」
「ばあさん、ビー玉ってどこかにあったよねえ」
「ビー玉?ええっと、たしか押し入れの奥の方にあったような気が……」
「それじゃあ、押し入れを探してみようかな。ハルちゃん、おかあさん、どうかお茶でも飲んで待っててくださいな」

おじいちゃんは、押し入れをあけて探しましたが、なかなか出てきません。
「おーい、ビー玉。ビー玉どこいったー?」
そうブツブツいいながら、さがしていると。
「ここだよ!ここだよ!」
と声がしました。
「あれ?今だれか何か言わなかった?といってもここにいるのは私だけだし……」
「おじいちゃん、こっちだよ。ビー玉はこっち!」
おじいちゃんはびっくりしながらも、声のする方をさぐってみると、ビー玉が出てきました。
「おじいちゃん、久しぶりだね。出してくれてありがとう!」
おじいちゃんは、きょとんとビー玉を見つめていました。
「さあ、何してるの?おじいちゃん!ハルちゃんが待ってるよ。ぼくたちも待ち切れないよ!」
「何だか夢を見ているようだが、そうだね。ハルちゃんのところへ行こう!」

「ほら、ハルちゃん!ビー玉だよ」
「わあ、きれい!まんまる!」
「こんにちは、ハルちゃん!ビー玉だよ」
「こんにちは、ビー玉さん。ハルです」
おかあさんもおばあちゃんも、ハルちゃんがビー玉に話しかけているのをほほえましく見つめていました。
どうやら、おじいちゃんとハルちゃんにだけ、ビー玉の声が聞こえるようです。

おじいちゃんは、ビー玉をポンとはじいて、別のビー玉にカチンとあてました。
「こうやって遊ぶんだよ」
ハルちゃんは、コクリとうなずきました。
「ビー玉さん、よろしくね!」
ハルちゃんはビー玉にヒソヒソ話しています。
小さな手がポンとビー玉をはじくと、見事に別のビー玉に命中しました。
「わあ、あたった!あたった!」
ハルちゃんは、ぴょんぴょんはねて大喜びです。
「ハルちゃん、はじめてなのに、お上手だねえ」
おじいちゃんがびっくりして言うと、ハルちゃんは得意気な顔をして言いました。
「うん、だって、ハルは名人なんだよー」
「まあ、ハルったら、ふふふ」
そばで見ていたおかあさんも思わずふきだしてしまいました。
ははは、ははは。
おじいちゃんとおばあちゃんの家にひさしぶりににぎやかな笑い声がひびきわたりました。

「ねえ、おじいちゃん、ほかにも何かないの?」
「うーん、そうだなあ。コマもあったかな?どれどれ、ちょっと待っててね」
おじいちゃんは、もう一度押し入れに行くと、こう叫んでみました。
「コマやーい、コマさん出てきておくれ」
すると、押し入れの奥の方から声が聞こえてきました。
「ここだよ!ここだよ!コマはここだよ!」
おじいちゃんが、さぐってみると、コマが出てきました。
「おじいちゃん、久しぶり!コマだよ。出してくれてありがとう!」
おじいちゃんは、子供の頃に戻った気分になり、ニコリとしました。

早速ハルちゃんのところへ行き、コマをみせました。
「へえ、これがコマっていうの?どうやって遊ぶの?」
「どれどれ、こうやってこうするとまわるんだよ」
コマはクルクルとまわり出しました。
「わあ、すごーい!ハルにもできる?」
「そうだねえ、もう少し大きくなったらできるよ」
「うん!もうすこし大きくなったらやってみる!」

「おじいちゃん、あとは何をして遊んだの?」
「そうだねえ、鉄棒もよくやったねえ。よく学校にあるやつで、よいしょとぶらさがるんだけど、おじいちゃんは、ちょっと苦手だったかな」
「ハルにもできる?」
「鉄棒は、もっと大きくなったらできるよ」
「うん!もっと大きくなったらやってみる!」

「ハルちゃんはいいこだねえ」
「うん!」
またまた得意気に言うハルちゃんのかわいい顔に、おかあさんもおじいちゃんもおばあちゃんも大笑いしました。
「さあ、ハル。そろそろ帰らないとね。また今度遊びにこようね」
「うん、おじいちゃん、また遊びにきてもいい?」
「ああ、いいとも。いつでもおいで。なあ、ばあさん」
「ええ、いつでも来てくださいな。ハルちゃん」
「わーい。やくそくだよ」

おじいちゃんとおばあちゃんは、おかあさんに手をひかれながら、手をふる小さなハルちゃんの姿をいつまでも見送っていました。
おじいちゃんは、胸のポケットに入れておいたハルちゃんからもらったお花を花瓶にいれました。
「まあ、かわいいお花ですね。おじいさん」
「ああ、本当だね。ハルちゃんからもらったんだ」
おじいちゃんは、お花を見つめながら思いました。
この花のように、ハルちゃんの心がなんてきれいなだろうと。
そして、いつまでもきれいな心の娘さんに育ってほしいと願いました。

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