シロとおじいちゃんの秘密 じいじ&ばあばホームへ
シロは生後一ヶ月ほどの小さな小さな子犬でした。
おじいちゃんのところへ来たばかりの時は、クゥンクゥンと毎日悲しい声を出していました。
母親から離れてしまい、悲しくて泣いているのだろうとおじいちゃんは心を痛めました。

おじいちゃんは、シロに早く元気になってもらおうと毎日せっせせっせと面倒をみました。
「ほら、ミルクをお飲みなさいな」
シロはミルクを少しペロペロとなめましたが、クゥンクゥンと小さく鳴いた後、その場にうずくまってしまいました。
おじいちゃんは、このままではシロが大きくなれないと思い、何か良い方法は無いものかと考えました。
「そうじゃ、あれをやってみてはどうだろう」
おじいちゃんは台所でゴソゴソと何かを探しはじめました。
「おうおう、あった、あった。ハチミツだ。私も子供の頃は大好物だったなあ。どれどれ一口……」
おじいちゃんの目はキラキラと輝きはじめました。
「あぁ、懐かしい味じゃ。何だか幸せな気分になるなあ。これならシロも元気になるだろう」
おじいちゃんは、うずくまっているシロにハチミツを与えてみました。
すると、シロはハチミツの甘いにおいが気に入ったのか、ペロペロとなめはじめました。
そして全て平らげ、シッポをふりながらおじいちゃんにワンワンと元気よくほえました。
「そうか、おまえも好きか。良かった良かった」

それから三ヶ月経った頃には、シロとおじいちゃんは大の仲良しになっていました。
シロには朝起きたらすぐにすることがありました。
おじいちゃんの部屋の窓の下へ行き、ガラスをカリッカリッと足でひっかくのです。
少しすると、ガラッと窓が開きおじいちゃんがニコリとほほえみます。
「シロ、おはよう!今日も起こしてくれたんだねえ。ありがとう」
シロはよろこんでシッポをふりながらクルクルと周ります。

おじいちゃんは着替えるとすぐにシロのところへ行きます。
「さあ、シロ、散歩に行こうか」
ワン、ワン!
シロはうれしそうに、跳びはねます。

おじいちゃんはシロを連れて、毎朝、同じコースを三十分ほど散歩します。
「あれ?あんなところに新しいお店ができたなあ」
ワン!
おじいちゃんは、シロにいろいろと話しかけながら歩きます。
シロもおじいちゃんの話に首をかしげながら聞いているようです。

ブーン。
「おっ、みつばちだな」
みつばちは、道の端にひっそり咲いていた小さな黄色い花にとまりました。
シロは、不思議そうにみつばちをみつめていました。
「ああ、シロ。これがみつばちだよ。ほら、毎朝おまえが食べているハチミツを集めてくれるんだよ」
シロは、しっぽをふりながらみつばちにチョコンとあいさつしました。
みつばちもうれしそうにシロの周りを飛び回っていました。

「シロ、新しいお友達ができて良かったなあ。じゃあそろそろ帰ろうか」
ワン!
帰りはシロがおじいちゃんをひっぱるかのように先頭にたって歩いていきます。
「散歩は楽しかったか、シロ?」
ワンワン!
シロはおじいちゃんの顔を見て満足気にほえました。
家にたどりつくとシロはホッとしたように長く身体を伸ばしました。
「ははは、シロ。やっぱりおまえも家が一番落ちつくか。ふわわぁ」
おじいちゃんもあくびをしながら、両手を思いきり上へ伸ばしました。

キュルルルー
おじいちゃんは、お腹をおさえながら、シロを見ました。
シロは口にお皿を加えて、おじいちゃんをジッと見ていました。
「おう、おまえも一緒かあ。そろそろ朝ご飯にしようかあ」
おじいちゃんは、台所でゴソゴソとシロのご飯を用意し、シロのお皿に入れてあげました。
そして、ご飯の上にハチミツをたっぷりかけて、おじいちゃん特製シロのごはんのできあがりです。
シロはシッポをふりながら、おじいちゃんの作ってくれたごはんを待っています。
「ほうら、おあがり」
ワン!
シロはまず上にかかっているハチミツをペロペロとなめました。
そしておいしそうな顔をして、おじいちゃんを見ました。
それからすぐにガツガツとご飯を食べ始めました。
散歩をしてよほどお腹が空いていたのでしょう、
あまりにもおいしそうに食べるシロを見て、おじいさんは急いで家の中へ入り、まだ寝ていたおばあちゃんを起しました。
「ばあさんや、私もお腹が空いたから、何か作っておくれ」

「はいはい」
おばあちゃんはパジャマのまま眠そうな目をこすりながら起きてきました。
おじいちゃんとおばあちゃんはいつも朝食にはパンを食べます。
おばあちゃんが台所で作りはじめると次から次へとテーブルの上にごはんが並んでいきます。
ほんのり焼けたトーストと湯気のたつコーヒー、半熟の目玉焼きとグリーンサラダ。
そしてバターにハチミツ。
焼きたてのトーストにおじいちゃんはハチミツをたっぷりたらします。
そして一口ほおばると、ニコリとした顔でうなずいています。
「ああ、うまい。幸せじゃなあ」
シロが来てハチミツをペロリとなめて以来、おじいちゃんは毎日欠かさずハチミツを食べるようになったのです。
おじいちゃんがいつもおいしそうにハチミツトーストを食べるので、おばあちゃんもつられて一緒に食べるようになりました。
「本当ねえ。ハチミツは甘くておいしいわ」
「そうじゃなあ。ばあさんの肌もピチピチしとるわ」
「まあ、おじいさんたら。ふふふ」
毎日ハチミツを食べているせいか、70歳を過ぎても二人は元気でした。

こうして毎日シロとおじいちゃんとおばあちゃんは仲良く楽しく暮らしていきました。
しかし、ある日のことです。
いつものようにシロがおじいちゃんを起そうと、ガラスをカリカリさせました。
いつもなら少しすると窓を開けてニコリとするのに、いつまでたっても窓はピクリともしません。
シロは様子のおかしさに、首をかしげて、窓をジッと見ていました。

しばらくするとシロのところへおばあちゃんがやってきました。
「おじいちゃんちょっと身体の具合が悪いみたいなの」
シロはクゥーンと心配そうに鳴き、窓の方をジッと見つめていました。
それを見たおばあちゃんは、おじいちゃんに代わってシロを散歩に連れて行くことにしました。
「シロ、今日はおばあちゃんと散歩にいこうか」
シロは、それでも心配そうにおじいちゃんの窓を見つめています。
おばあちゃんは、少しションボリしてしまいました。
シロはそんなおばあちゃんに気がつき、ワンとほえました。
そしてシロとおばあちゃんは散歩に行くことになりました。
「シロ、どっちに行けばいいの?」
おばあちゃんはシロに聞きましたが、シロは家を何度も振りかえるので、なかなか前へ進みませんでした。
よほど、おじいちゃんのことが心配だったのでしょう。
いつもの半分くらいの時間で散歩から帰ってきました。
そして帰ってくるなり、シロはガラスをカリカリさせ、中の様子をのぞこうと飛び跳ねていました。
おばあちゃんは、シロにごはんを持ってきました。
シロはごはんを一口食べましたが、静かにうずくまり、おじいちゃんの窓の方をただじっと見つめていました。

次の日もおじいちゃんは窓から顔を出すことはありませんでした。
おばあちゃんがシロにごはんをあげても、ほとんど口をつけないので、どうしたらいいのか困りました。
おばあちゃんはおじいちゃんに聞いてみました。
「シロがごはんを食べないの。おじいちゃんのことを心配してるみたいなんだけど、どうしたらいいのか」
おじいちゃんは青白い顔をしたまま、話はじめました。
「ああ、きっとごはんだろう。あれを入れてあげれば食べるだろう……」
そう言うとそのままおじいちゃんは眠ってしまいました。
おばあちゃんは、あれが何か考えましたが、さっぱりわかりません。
おばあちゃんはシロのところへ行き、聞いて見ました。
「シロ教えておくれ。あれってなんのことなの?」
シロの頭をなでながら、シロの目をジッとのぞきこみました。
クゥーン。
シロはただたださみしそうに鳴くだけでした。
ブーン。
「あら、みつばちだわ!」
ワン!
シロはみつばちを見ると、立ち上がり元気にほえました。
シッポをふりながら、シロはみつばちと仲良く遊んでいました。
シロはおばあちゃんの方を向いてほえました。
ワワン!ワワン!
おばあちゃんはもしかしたらと思い、急いで台所へと向いました。
「おじいちゃんは、これをいつもあげていたのね」
おばあちゃんは少しうれしそうに、ごはんの上にハチミツをたっぷりかけました。
「シロ、はいごはんよ」
ワン、ワン!
シロはおいしそうにごはんを食べ始めました。
「やっぱりそうだったのね。どおりでハチミツがすぐに無くなると思っていたわ」

そしてその次の日。
いつものようにシロがガラスをカリカリすると、窓が開きました。
「心配かけてごめんな、やっと元気になったよ」
おじいちゃんのニコリとした顔を見て、シロはグルグルまわったり、シッポをふったりして喜びました。
そしてやっと安心したのか、グッと身体を長くして、あくびをしました。
おじいちゃんもそんなシロの姿を見てホッとしました。

久々のおじいちゃんとの散歩にシロは大喜びです。
おじいちゃんの身体を心配しながらゆっくりと散歩をしていました。
おじいちゃんが少しヨロリとすると、シロはすぐにかけてきておじいちゃんを支えようとしました。
その日はいつもより少し長い散歩となりました。

「さあ、シロ。おじいちゃん特製のごはんを作ってあげるから。ちょっと待っててね」
おじいちゃんが台所へ行くと、もうシロのごはんの準備ができていました。
「あれ?ばあさんが作ってくれたのかな?おおう、ハチミツがたっぷりかかっている!シロと私の秘密だったが、よくわかったものだ、さすがばあさんじゃ」
おばあちゃんはその様子をとびらの陰からこっそりのぞいていました。
「フフフ」
「おりゃ、ばあさんいたのか!?」
「私も仲間にいれて下さいな。もうシロとおじいちゃんだけの秘密じゃないのですから」
「じゃあ、しょうがないなあ。ばあさんも明日から一緒に散歩に行くか!」
「ええ、おじいちゃん」

おじいちゃんとおばあちゃんがニコニコしながら、シロのところへごはんを持ってきました。
シロは不思議そうな顔をして二人をキョロキョロと見ていました。
「ほら、ごはんだよ」
ワン!
シロはしっぽをふりながら、おいしそうにごはんを食べました。
ブーン。
「あら、おはようさん。昨日はどうもありがとうね」
おばあちゃんはミツバチに言いました。
「そうかあ、ミツバチに教えてもらったのか。こりゃあ、まいった。ハハハ」

おじいちゃんとおばあちゃんは楽しそうに笑いながら、家の中へ入っていきました。
そしてその日もハチミツがたっぷりかかったトーストを二人でおいしくいただきました。

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