火がついた |
ぼくは学校から帰るとすぐに、近くの野原へと急いだ。 今日もたくさん虫を捕まえるぞ!と虫網を振り回していた。 ここは田舎だけど、ぼくは虫がたくさんいるこの町が大好きだ。 虫取りに夢中になっているとき、急に声をかけられびっくして顔をあげた。 そこには、見知らぬ旅人風の人がにこやかに笑って立っていた。 「タバコを吸いたいんだけど、火を切らしてしまって・・・まさか君は火なんか持ってないよね?」 ぼくは、タバコを吸える年ではないし、マッチやライターなんて持っていない。 「うん、火は持ってないよ。でも、ぼく自分で火をおこせるよ!」 そう、ぼくは先日キャンプで火のおこしかたを習ったばかり。 実は、一度試してみたくてウズウズしていた。 でも、父ちゃんも母ちゃんも危ないからダメだって。 今は困っている人がいるから試してみてもいいよね。ぼくは勝手にそう思うと何だかうれしかった。 旅人はびっくりした顔をしながら言った。 「火をおこせるのかい?それはすごいね。でもちょっと時間がかかりそうだから・・・気持ちだけありがとう」 旅人は、あたりをキョロキョロしている。 すると、地元のおじさんがやってきた。 旅人は、地元のおじさんにも聞いていた。 「すみませんが、タバコを吸いたいのですが、火を切らしてしまって。火を貸していただけませんか?」 すると、地元のおじさんは「ああ、いいよ。ほら私の顔にタバコを近づけろや」と言った。 旅人は不思議に思いながら、タバコをおじさんの顔に近づけた。 ぼくは、虫を取る手を止めて、じっとその様子を見つめていた。 おじさんはおでこをポンとたたいた。 「あれ?おかしいな」ともう一度ポンとおでこを強く叩いた。 すると、おじさんの目から火が出て、旅人のタバコに火がついたのだ。 ぼくはびっくりして、虫網を手から離してしまった。 旅人もびっくりしていたが、無事にタバコに火がついたので、地元のおじさんにお礼を言っていた。 バス停のタバコを吸うところで、旅人はしきりに自分のおでこをたたいては、首をかしげていた。 地元のおじさんは、何事も無かったように、鼻歌を歌いながらどこかへ行ってしまった。 ぼくも、おそるおそる自分のおでこをポンと叩いてみた。 でも目から火は出なかった。 今度は少し強くポンと叩いてみた。 やっぱり火は出てこなかった。 バス停の方を見てみると、旅人も何度も何度もおでこを叩いていた。 やはり火は出ないようだ。 何度も何度もおでこを叩いたせいか、少し頭がクラクラしてきた。 バス停の方を見ると、もう旅人はいなかった。 あたりを見回すと、空はオレンジ色で、暗くなりかけていた。 ぼくは、夢を見ていたのだろうか? 「ごはんだよ~!」 遠くから母ちゃんの声が聞こえてきた。 ぼくは、虫網と虫かごを持って、急いで母ちゃんの方へ向かった。 母ちゃんはぼくの目を見て言った。 「あら~、あんたの目が燃えてるわ~。夕日で真っ赤か!アハハ!」 一瞬ぼくはドキッとしたが、確かにその日の夕焼けはいつもより赤く燃えている気がした。 ぼくの町は、虫がたくさんいて、不思議なおじさんがいて、きれいな夕焼けが見れる。 やっぱりぼくはこの町が大好きだ! そう思いながら、母ちゃんの顔を見ると、ぼくの心にポカポカ温まる火がついたような気がした。 |
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