のど |
ぼくが友達のところへ遊びにいったときのことだった。 友達のおじちゃんが「のどから手が出る」と話していたのだ。 ぼくはびっくりして、おじちゃんののどを見た。 でも何にも出ていない・・・ おじちゃんは、おばちゃんに「新しい車が欲しいなあ」とお願いしているようだ。 「今度の車はとってもいいよ。家族で遊びに行けるし、大きな荷物があるときも便利だよ」と必死だ。 おばちゃんは「そんなお金ないわ。無理よ」と断っている。 おじちゃんは「一生のお願いだ」とおばちゃんにおがんでいる。 おばちゃんが黙って首をふると、おじちゃんは「・・・もうのどから手が出るほどほしいんだよ」と半分泣きそうだ。 ぼくはさっき聞こえたのは気のせいじゃないと思って、もう一度おじちゃんののどを見た。 やはりのどからは何にも出てこない。 こわくておじちゃんには直接聞けなかったので、家へ帰ってパパに聞いてみた。 「ねえ、パパ。パパものどから手が出るの?」 パパはびっくりしたようだった。 「何でそんなこと聞くの?」 「だって、友達のおじちゃんが、おばちゃんにのどから手が出るほど車が欲しいよって言ってたの」 パパは優しく笑って言った。 「きっとおじちゃんはものすごく車が欲しかったんだね」 ぼくは、うなずいた。 「うん、おじちゃん何度も頭下げて、一生のお願いだ!って言ってたもん」 パパはぼくの頭をなでて言った。 「ところでおじちゃんののどから手は出ていたのかな?」 ぼくは、首を思いっきり横に振った。 「そんなことあるわけないよー!もしのどから手が出てきたらきっと怪物だよー!」 パパは声を出して笑った。 「ハハハ!そうだよな、出るはずないよな。それくらい欲しい!という例えなんだけどね。ぼくにはまだ難しいかな?」 ぼくは何となくわかったような気がした。 「おじちゃんはとにかく車が欲しかったんだね。それと、おじちゃんは怪物ではなかったんだね。ぼく何だかホッとしたよ。だって、おじちゃんが怪物だったら、友達のお家へ遊びに行けないからね」 そばでパパはやさしくうなずいた。 おじちゃんがそんなに欲しいものがあったのかと思うと、ぼくは急に思い出した。 「そうだ!パパ!前から約束していた消防車のおもちゃ、いつになったら買ってくれるの?」 やさしいパパの顔が急に困った顔になった。 「・・・ああ、そうだったね。今度ね・・・」 ぼくは早速言ってみた。 「ぼくねえ、消防車のおもちゃ、のどから手が出るほど欲しいんだよ!」 パパは、頭を抱えながら言った。 「まいったなあ、よしわかったそんなに欲しいなら今から買いに行こうか!」 「ワーイ!ワーイ!ありがとうパパ!」 「ハハハ、のどから手が出るほど欲しいんなら、しょうがないなあ」 「ワーイ!ワーイ!のどから手が出るってすごいことだね!」 「・・・そうだね。でもあんまりのどから手が出るほど欲しがってると、本当にのどから手が生えてくるぞー!」 「・・・えっ、本当?」 ぼくは、あわててのどをなでた。 「ハハハ、ひっかかったなあ」 「もう!パパのいじわるー!!」 ぼくとパパはのどがかれるくらいに騒いでいたので、のどがカラカラになった。 のどをゴクゴクならして、ぼくはジュースを、パパはビールを飲んだ。 のどがうるおって、フゥと息をついた。 今日は本当にのどかな一日だった。 あれれ? |
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