森の中で |
まさおくんはパパの手をひっぱって近くの森へ遊びに行った。 「おいおい、そんなに急がなくても」 まさおくんは、慣れたように森の道を進んでいった。 「パパ、ついたよ!」 まさおくんは、キラキラした瞳でパパに言った。 そこは、光が差し込み森の中でも特別な空間のように感じた。 その光を感じようと上を見上げると今にも空に届きそうなくらい高く大きな木が一本あった。 まさおくんはニヤリとしながらパパに言った。 「この木、パパみたいなんだ!」 パパはきょとんとしながら、高く大きな木を上から下まで見渡した。 木の根元は、地面からはみ出すように、でもしっかりと大地に張った大きな根っこだった。 パパはようやくうなづいて言った。 「そうか、この大きな根っこでしっかりと立っている姿がパパに似ているって思ったんだね」 まさおくんは「うん、そうだよ、だってこの大きな根っこがなかったらきっと木は倒れちゃうでしょう。パパがいなかったらぼくもママも大変だよ」 パパは少し涙が出そうになったので、大きい木の上を見上げた。 「それからね、あの太い枝が腕みたいでしょう。よくパパの腕につかまって遊んでたけど、全然びくともしなくってすごいなあって思ってたんだ」 パパはまさおくんがそんなことを思ってくれていたと思うとうれしくて言葉につまってしまった。 「パパどうしたの?」 まさおくんが心配そうにパパを見ると、パパは大きく腕を伸ばして深呼吸した。 「わあ、やっぱりこの木と一緒だ!ほら、あの腕みたいな太い枝、横に伸びてて今のパパと一緒だよ」 パパはニコリとほほえみながらあたりを見回した。 「しかし、気持ちいいなあ、この大きな木もすごいが、周りにもたくさん木があってこの場所は格別に空気がきれいだなあ」 大きな木の周りには少し小さな木が何本も寄り添うように立っていた。 「うん!ぼくはあの木、だってパパの木の一番そばにいるから!あれはママの木!あっちは、じいちゃんの木!そのとなりはばあちゃんの木!みんな仲良く寄り添って何か楽しそうだよね」 パパは毎日毎日家族のために一生懸命働いていたけれど、本当に家族が喜んでくれているかいつも不安だった。 忙しすぎて、まさおくんともあまり遊んであげることができなかったので、もしかしたら嫌われてるかもしれないなんてことすら思っていた。 「ありがとう、まさお」 「へへへ、ぼくこそパパにありがとうって言ったことないんだ。ごめんね。……パパ、いつもありがとう!」 パパはまさおくんの頭をなでながら、つぶやくように言った。 「この大きな木は、何十年何百年といろんなことを見ているんだろうね。この世の変化もずっと見てきたんだろうなあ。ただ黙ってこの場所でじっと立って」 「うん、雨がザアザアふってても、雪がモッサモッサ積もっても、風がビュービュー吹いても、森にくる人が根っこにのっかって踏んづけても、ずっとがんばってたんだね!やっぱりパパみたいだ!パパってすごいね!」 パパは、心の中にあった悲しくてさみしい暗い部分が少しずつ吹き飛ばされていくように、さわやかであたたかな気持ちになっていくのを感じた。 森の中を心地よく吹き抜ける風に、大きな木が嬉しそうにサワサワと音を立てていた。 |
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