本当は心の優しい金太 |
今から数百年ほど前、山添のふもとに貧しいながらもほそぼそと暮らしている家族がおりました。 その家族は、おとうとおかあと金太の3人です。 金太は家の手伝いは一切しなかったので、村でも「なまけものの金太」で名が通っていました。 それに比べて、おとうとおかあは毎日毎日朝の暗い内から夜まで農作業に専念しておりました。 しかしいくら頑張っても食べるものといったらヒエやアワなどが中心で、ごちそうといえばおいもが唯一のごちそうでした。 おとうは心の中では「本当に困った子だ。金太が手伝ってくれればもう少し生活も楽になるのになあ。」と思っていました。そうは言っても自分達の育て方が悪かったのかもしれないと自分自身を責めたりもしました。 おとうはどうにかして金太の心をつかみたいと考えておりましたが、なかなか心を開いてはくれませんでした。 おとうは急いで金太の心を動かすことは難しいことだと思いました。 そこでおとうは考えました。 「そうだ、一緒に相撲でもするか。そうすれば少しずつでも金太の体力作りになるからな。」 それから毎日金太とおとうは相撲をとることが日課となりました。 ところが何度やっても金太はおとうに勝つことはできません。 負けると金太は決まって、不満気にコノクソッ!と自分で自分の足を蹴るかのような仕草をして、悔しい気持ちを爆発させたりしていました。 それでも、金太は一向に家の手伝いをするこはありませんでした。 そうして十数年の月日がたちましたが、金太はあいかわらずでした。 しかし、おとうもおかあも、そのうち金太が自分で気が付くときがくると信じていました。 おとうは大分体力も弱まり、畑仕事をするにも大変な思いでした。 おかあはそんなおとうを気遣い、「おとうよ、あんまり無理するでねえ。わたしがするから心配するでねえ。」と言ってくれました。 おとうは「なあに大丈夫さ。まだまだ元気さ。」と強がって見せるが、気ばかりで、日に日に体力が衰えて行くのを感じていました。 そんなおとうとおかあのことを金太はわかっているのか、わかっていないのか、よくわかりませんでした。 家の手伝いはしないけれど、金太は村でも力持ちの方でした。 村のみんなからも金太によくいいました。「金太よ、こんなにいいからだしてるのだから、少しはおとうやおかあの手伝いをしたらどうだ。」 しかし、あいかわらず金太は聞く耳持たずという感じで、困ったものでした。 それから数日後、力がありあふれてか、金太がおとうに「おとう、金太と相撲をとらんか。」と言ってきました。 おとうも久々に金太と相撲でもやろうかと、元気をふりしぼって「おお!まだまだ金太には負けんぞ。金太に負けるようじゃもう畑仕事もできねえな。よしやるか。」といいました。 こうして金太とおとうは相撲をとることになりました。 おとうは金太にさっとぶつかっていたが、金太のからだは岩にぶつかったようにちっとも動きませんでした。 おとうは内心驚いていました。「おかしいなあ、こんなはずではねえ。それにしても、金太がこんなに力強くなったとは・・・」と初めて実感しました。 そのときでした。金太は「よおし!」とおとうを投げ飛ばしました。 おとうはガクッと腰を落とし、立ちあがることが出来ませんでした。 そして涙を流していました。 それを見た金太は初めておとうに勝って喜ぶのではなく、その場で泣き崩れたのです。 金太は「・・・今まで何てことをしてきたんだ。もっと早くおとうやおかあの手伝いをしていれば・・・」と、やっと自分自身がやってきたことに気がついたようでした。 金太は自分の力が強くなっておとうに勝てたのではなく、おとうの力がなくなったことにようやく気が付いたのでした。 それから、毎日毎日金太は畑仕事にせいを出し、農作物も今まで以上によいものが取れ、村の人たちも金太が気がついて良かった、良かったと大喜びでした。 このことで村全体も一段と明るくなって、金太も村のため、おとう、おかあのために今日も汗にまみれ、仕事に喜びを覚えるようになりました。 金太はこういっていたそうです。 「親はいつまでも元気でいると思っていたよ。まさかこんな力がなくなってしまうなんて・・・。おれがやらなければ。おとうとおかあのために。」 |
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