ななこへのお弁当 じいじ&ばあばホームへ
「おかあちゃん、今日はどこへ行くの?」
「ななこ、お腹空いたことでしょう。」
「うん、少し空いたけど、ななこ大丈夫。おかあちゃんと一緒にいるから、少しくらいお腹が空いたってへっちゃらよ。」

「ななこ、この公園で少し待っててね。おかあちゃん、お弁当でも買ってくるからね。絶対ここから離れたりしたらダメよ。ななこが迷子になったら、おかあちゃん悲しくなるからね。」
「うん、わかった。ななこ、ここでいい子にしている。おかあちゃん好きだからおかあちゃんのこと悲しませたくないから。だから、ここで待ってる。」
「じゃあ、おかあちゃん行ってくるからね」

おかあちゃんはコンビニへと弁当を求めに行ったが、今日はいつもと違って弁当がなかった。
「今日は、弁当は全部売れてしまったのかしら。そろそろ、出ててもいい時間だと思ったんだけど。」
しかし、この時間にこのコンビニから弁当が出されることはなかった。

しかたなくおかあちゃんは、このコンビニはあきらめて、次のコンビニへと足を運んだ。
すると、なんとか1ケの弁当を見付けることができた。

実はおかあちゃんはコンビニに弁当を買いに行ったのではなく、日付が古くなった弁当をコンビニの外に廃棄するのを待っていたのだ。

おかあちゃんはお腹を空かして待っているななこの元へと急いだ。

そして公園で待っているななこに「ななこ、お弁当だよ。」と渡すが、ななこはあまりうれしそうではなかった。

「ななこ、どうしたの?」
「・・・おかあちゃん、遅かったね。」
「ごめんね、ちょっと混んでいてね」
「ななこ、おかあちゃんがななこを置いてどこかへ行ってしまったのかと思ったの。ななこ、お弁当そんなに食べなくても大丈夫よ。それよりもおかあちゃん、ななこのそばにいてね。ななこ、とっても淋しいの。ななこのためにおかあちゃんがお弁当買いにいってひとりぼっちでいるより、おかあちゃんと一緒にいるほうが好きよう。」ななこは目にいっぱい涙をためて言った。
「おかあちゃん、お金なくても、お弁当食べなくてもいい。ななこといつも一緒にいてね。おかあちゃんと一緒にいるのが一番すきよう。」

このときおかあちゃんはどんなにおとうちゃんがいてくれたらと思った。
そしてななこにこんな淋しい思いをさせて申し訳なく思った。
おかあちゃんはこの時決して身体が丈夫だったわけではなかった。
おとうちゃんさえいてくれれば・・・
おとうちゃんがいなくなってから三年がたった・・・。

すると、ななこに「ねえ、ななこのおとうちゃんはどこへいったの?」と聞かれた。

おかあちゃんは声をつまらせて言った。

「実はね・・・。おとうちゃんはお人よしだったのかねえ。知り合いの人に迷惑をかけないからと頼まれて、どうか助けてくれと頭を下げられて・・・。おとうちゃんとおかあちゃんの土地と家を金貸屋さんにお金を返すまでの間預けるということで、お金を借りてその人に貸したんだよ・・・。その人は涙を流して、絶対迷惑はかけないから、必ず返しますからと感謝して帰っていったよ・・・。でもその人は、そのままどこかへ逃げて行ってしまったんだ。それを知った金貸屋さんは、おとうちゃんとおかあちゃんの土地と家を持っていってしまったんだ。金貸屋さんからお金を借りたのはおとうちゃんだから、いくらそのお金を知り合いの人のために貸したとしても、おとうちゃんがお金を返さなくてはならなかったからね。・・・おとうちゃんはみんなに申し訳無いことをしたと・・・3年くらいしたら必ず帰るからと言って・・・毎日働いて、毎月毎月お金を送るから・・・と言って出て行ったよ。それっきりいまだにお金を送ってきてくれたことはないんだよ・・・。」

「・・・おかあちゃん。ななこ思うんだけど、おかあちゃん毎日居るところ違うから、おとうちゃんがおかあちゃんとななこの居るところわからないし、会えないんじゃないのかな?」

「おかあちゃんもそう思うよ。おかあちゃんのお父さんとお母さん、ななこにはおじいちゃんとおばあちゃんだね。ふたりも死んでしまっていないし・・・土地もお家も取られてしまったし・・・お金もないし・・・毎日住むところがなくて、毎日場所が変わってるものね・・・」

「・・・ななこ平気だよ。きっとおとうちゃんもおかあちゃんとななこのこと探してくれると思うし、働いていっぱい稼いできて、たっくさんお金も持ってきてくれるかもしれないよ。それにね、ななこはどんなに貧乏でもいいんだ。少しくらお腹がへったって平気だよ。早くおとうちゃんがななこたちを見つけてくれるといいね。ななこはいい子にしてるから必ず帰ってきてくれると思うよ。」

そんなななこのけなげな言葉を聞いて、おかあちゃんは一人心の中で思うのだった。
「ななこ・・・。ななこもあと二年もすると学校だね。ごめんね。おかあちゃん、住所が無いから、仕事をさせてくれるところがないんだ。なんでこんなことになってしまったんだろうね。おとうちゃんもおかあちゃんも何にも悪いことしてないのにね。人を信じたばっかりにこんな苦しい思いをしなくてはならないんだろうね。だまして逃げて行った人はお金に困ることなくいい思いをしてるんだろうか。だました人よりだまされた人の方がよっぽどいいなんて世間様では言っているけど、実際にだまされた人がどれほど苦しい思いをしているのか、生きていくのさえつらい思いをしているのか、だまされた人にしかわからないと思う。」

そしてななこに言った。
「おかあちゃん、ななこに何にもしてあげられなくてごめんね。」とななこの頭をなぜました。
ななこは涙でうるんだ目でおかあちゃんのことをしっかりと見つめ、「ななこのこと捨てないでね。」とおかあちゃんの手を優しくにぎりしめた。
おかあちゃんとななこはいつまでもいつまでも手をにぎりしめたまま「ずっと一緒よ。」と繰り返していた。
そして今日もいくあてもなく、どこへいくというわけでもなく二人一緒に歩いていくのでした。

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