浅里村 じいじ&ばあばホームへ

今日は朝から天気も良いので、少し遠出をして浅里村というところへ営業に行くことにした。

電車を乗り継ぎ、歩くこと30分。
やっとのことで、浅里村へついた。
浅里村は海に面する村で、浜辺にそってポツポツと家が立ち並んでいた。

さあ、当社自慢の自然食品を売り込むために営業開始だ。

もうすでに1時間ほど歩き回っているが、いまだに一軒も話しを聞いてくれた家がない・・・。
いつもどおりに、ドアをトントンとたたき、「こんにちは」と声をかけるのだが、すぐにバタッと戸を閉められてしまう。
私の人相が悪いのか、声のかけ方が悪いのか、わたしにはさっぱりわからない。

いつもならば、何軒かまわれば1軒や2軒の家は話しぐらいは聞いてくれるのだが・・・。
私は決して押し売りするつもりなどないのに。
商品の良さを知ってもらったうえでご購入いただければ幸いと思っている。

それにしても、何だかこの村はおかしな雰囲気がただよっているような気もする。
よそから来たものとは話してはいけないとか、セールスマンは恐いものだとか、そういうふうに思われているのだろうか?

とにかく、せっかく遠くまで足をのばしたのだから、もう少しまわってみよう。

すると、向こうからやはりセールスマンらしき人が歩いてきたので、話しかけて見た。
すると、その人も同じような状況にあることがわかった。
そしてもうこの村で営業をするのはあきらめて帰るところだと言った。

それを聞いて私もあきらめて帰ることにした。
私のセールスの仕方が悪いとかそういうことではなさそうだからだ。

こうしてセールスマン同志、会社へ戻るためこの村を離れようと歩き始めたときのことだ。
村の様子がおかしい。
さっきまで浜辺にそって立ち並んでいた家がひとつも無い。
そしてあるのは浜辺にそって並ぶたくさんのアサリ貝だけだった。

私達はその光景を見て驚いた。
今まで一生懸命営業をするためにトントンと戸をたたいていた家は、実は貝のアサリだったのだ。

なんてことだ。
貝相手に営業をしていたとは。
どうりで固く閉ざすわけだ。
などと納得している場合ではない。
なんて不愉快なことだ。
もう二度とこの村で営業などするものか。

相手は貝だったが、営業をしていて、ちゃんと説明する前にすぐに戸を閉められてしまうことほど、つらいことはないとつくづく思った今日一日だった。

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