小熊の健太 |
(健太の母) ああ、目が覚めた。春が待ち遠しかった。すっかり周りに雪が無くなったわね。 健太〜、春が来たよ〜!!お腹も大分空いたことだろうね。 (健太) ママ、お腹空いた。 (母) そうでしょう、そうでしょう、長いこと食べていなかったからね。 ママと一緒に食べ物を探しにいこうか。 でもママから遠く離れてはいけませんよ。 (健太) ママ、なんで遠くへいってはいけないの? (母) それはね、健太がまだ赤ちゃんの時、パパが昔々に住んでいた故郷を見たいと、パパのおじちゃんと一緒に出かけて行ったの。 けれど、おじちゃんだけ息を切らして走って帰ってきただよ。 おじさんに「パパはどうしたの?」と尋ねたんだ。 すると、おじさんは故郷へいく途中、あたりの様子がすっかり変わっていて、人間様が家を建ててすっかり散歩をする道がなくなってしまっていたそうよ。 「あれ?あれ?」と思いながらも、進んで行ったら、大勢の人間が集まってきて、大騒ぎしていたそうよ。 「クマだ!クマだ!」と叫び声と共に、鉄砲の音が「バーン!!」と鳴り響いたって。 そして、パパはその鉄砲の弾にあたって死んでしまったって。 ママは信じられなくて、おじさんに「パパは人間に何か悪さでもしたの!?」と泣きながら聞いたの。 そしたら、おじさんはボソッとこういったの。「ただ故郷を見てみたかったんだ」 (健太) 何で、人間が住んでいるの?健太たちの故郷だったんだよね? (母) そうよ。人間が後からやってきて、木を倒して、家を建ててしまったの。 それなのに、私達がいくと「クマが出た!クマが出た!」と大騒ぎするのよ。 だから、健太もママから遠く離れて遊びにいってはいけないのよ。わかった? (健太) うん、わかったよ。ママ、お腹空いたね。 (母) そうね、じゃあそろそろ食べ物でも探しにいこうね。 やがて、夏がきて、秋になった。 (母) 健太、もう秋が来たね。 山も木の葉も赤く染まってきたから、冬になる前に早いとこ食べ物を探しておかなくてはね。 でも、決して人間が勝手につくった人里にはいってはいけないよ。 (健太) うん、わかってるよ。 でも、ちょっとだけ下に行ってみてもいい?おいしそうなブドウや木の実がなっているみたいなんだ。 (母) ダメよ!! 健太までパパと同じように、人間に鉄砲で打たれて死んでしまったらどうするの!! これ以上ママを悲しませないでね。 (健太) ・・・ママ、健太はそんなにお腹が空いていないから、下まで食べ物を探しにいかなくても春までは大丈夫だよ。 (母) ・・・健太。 ごめんね。 健太は何も悪いことはしてないのにね。 人間に私達の故郷を奪われてしまったばっかりに・・・ やがて、冬が訪れる。 (母) やっと、寝るところも見つけたし、健太と今年も無事に過ごせて、こんな幸せなことってないわ。 (健太) そうだね。 ・・・僕、お腹空いていないから心配しないでね。 (母) じゃあ、そろそろ春まで寝ましょうね。 健太、お腹空いているみたいだけど・・・ごめんね。 ・・・おやすみ。 また、春になったら元気な笑顔を見せてね。 健太は、お腹を空かせながら・・・ そして母は、育ち盛りの健太に十分食べ物を与えることができずに申し訳なく思いながら、冬の眠りにつきました・・・ |
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