酒癖の悪い係長 じいじ&ばあばホームへ
係長
「妻川君、今日は何曜日だったかね?」

妻川
「係長、今日は金曜日です。」

係長
「ほお、金曜日かね。山川君、今日は金曜日だね。」

山川
「ええ、そうです。」

係長
「じゃあ、仕事終ったら、キュッと行くか!話は決まったね!」

そう言うと、係長はうれしそうにどこかへ行ってしまいました。
妻川と山川は二人で愚痴をこぼし始めました。

妻川
「まったくあの係長はどうしようもないねえ。飲むことになると、すぐ自分勝手に決めて、係長命令だとか言って!」

山川
「ほんと、ほんと、そのうえ酒癖は悪いし!」

妻川
「仕事中だって人使いは荒いし、言い方もきついし」

山川
「うんうん、少しでも『これはこうじゃないんですか』なんて言ったら『今何と言った!私の言う通り黙ってやればいいんだ!』って、係長が間違ってても絶対認めない。」

妻川
「そうそう、本当にわかってるのか、わかってないのか、それがおれらにはわからないね。」

山川
「それにしても今日もあの係長と酒を飲むのかと思うと憂鬱だよ。」

やがて仕事が終り、妻川と山川は帰ろうとしました。

係長
「妻川君!山川君!ほら行くぞ!」

妻川
「あの、今日は息子の誕生日で、家族でお祝いするんです。みんな待ってますので、今日は無理です。」

係長
「・・妻川君の息子は今日で何才になるんだ?」

妻川
「今日で7歳になります。」

係長
「妻川君の息子は14才じゃないのかな。」

妻川
「いいえ、7歳です。」

係長
「3ヶ月前に飲みに行こうと言った時も、今日は息子の誕生日だからと言ってたね。妻川君の家では年に2回も誕生日があるのかね?」

妻川
「・・・(よく覚えてるなあ。全く嫌味ったらしいといったら)」

係長
「山川君はキュッと行くね!」

山川
「あの、私も無理なんです。田舎からおふくろが出てきて急な話もあって明日には帰らなくてはならないんですよ。」

係長
「・・山川君のおふくろさんは三年前に亡くなっていたはずだがね。」

山川・妻川
「・・・」

係長
「妻川君も山川君も私と一杯飲むのは嫌なのかね?」

山川・妻川
「・・・いえ別に」

係長
「そうじゃないよね。そうだろうと思った。じゃあ行くよ!」

山川・妻川
「・・・はい」

山川と妻川は係長に言いくるめられてしかたなく飲みにいくことにしました。

山川と妻川はさっさと一杯だけ飲んで帰ろうと思ってぐいっとグラスを飲み干しました。
すると係長は
「おお、いい飲みっぷりだねえ。さ、どんどん飲めよ。」
とグラスに酒を注ぎました。
山川と妻川は思わず顔を見合わせてしまいました。
その様子を見ていた係長は
「なんだ、俺のつぐ酒が飲めないのか?」
と言いがかりをつけてきました。
二人はしかたなく、係長がグラスに酒をそそぐのにまかせて飲みました。
係長はまるで二人に次から次へと飲ませて酔いつぶそうとしているかのようでした。

そして二人が酒を飲みすぎてホワーッとしている間に、係長はさっさと店を出ていってしまいました。
係長がいないことに気づいた二人は、店のおやじさんに聞いてみました。
すると係長は勘定は二人が支払うからと言って、とっくに帰ってしまったとのことです。
山川と妻川はホトホト係長にはあきれてしまいました。

先に店を出た係長も、かなりお酒を飲んでいたのでフラフラした足取りでした。
そしてタクシーに乗り「さっさと出発しろ!」と運転手にどなりつけていました。

運転手
「どちらまで?」

係長
「いいからまっすぐ行け!」

運転手
「・・・はい」

ひたすらまっすぐ進むうちに田舎の山道にやってきました。

係長
「おい、タクシー、ここでおろせ!」

運転手
「こんなところでいいんですか?何にもないところですよ。」

係長
「客の言うことを聞けないのか?黙ってここでおろせ」

運転手
「・・・」

こうして係長はお金を支払い、山道におりたちました。
そして静かな山道に酔っ払った係長の声がこだましてきました。

「おう!また一杯いくかあ!ああ、うまい。ここは静かでいいなあ。いい酒だあ。」
係長は途中で買っていたウイスキーのビンを片手に持って、グイッと一杯飲み干しました。

「それにしてもここは暗いなあ。おれの目が悪いのかあ?まだ酔ってないぞ〜!まだまだ飲むぞ〜!酒!酒だ!早くもってこい!」

しーんと静まりかえったあたり。
いくら係長が酒を注文しても誰も持ってきてくれるわけはありません。

「なんだこの店は!客が注文しても誰も口を聞いてくれもしないのか!あれえ?なんか頭がクルクル回ってるみたいだ。地球がおかしいのか?まあそんなことはどうでもいいや。誰も酒もってきてくれないんなら、ここにあるウイスキーでいいや。」

そしてまたグイッと一杯飲み干しました。
「ああ、うんまい!」

係長はいい気分でフラフラその辺を歩いていると、目の前に誰かがいるのに気が付きました。

係長
「オッ、なんだあ、おれの他に客がいるじゃないかあ。ほら、お客さんよ〜、おれのウイスキーはどうだ。飲めや、飲めや。」

目の前の人
「けっこう、けっこう」

係長
「なに?おれの酒が飲めないのか?なんでだ?おれが気に入らないのか?」

目の前の人
「・・・」

係長
「そんなら、飲め。ほら」

目の前の人
「けっこう、けっこう」

係長
「なんだ、おれさまをばかにしているのか!全く頭にくるなあ!」

すると何だかあたりがざわざわしてきました。

係長
「なんだあ、他にもたくさん客がいるじゃないかあ。さあ、こっちのお客さん、飲め!」

こっちの人
「けっこう、けっこう」

係長
「なんだ、あんたも飲めないのか!じゃあ、そっちのお客さん、飲んでよ!」

そっちの人
「けっこう、けっこう」

係長
「なんだよ、どいつもこいつも!本当に頭にくるなあ。なんでおれのウイスキーが飲めないんだ!おい、そこの若いの、飲めよ!」

若い人
「けっこう、けっこう」

係長
「もういいよ!おれ一人で飲むよ!」

係長は一人でグイッとウイスキーを飲み、あまりにも頭に来て、その辺を蹴飛ばしたり、叩いたり、わめきだしました。

するとあちこちで大変な騒ぎとなりました。
あちこちで騒ぎが大きくなればなるほど係長は頭に血がのぼり、もう手がつけられないほど暴れ出しました。
気が付くと係長の周りには、たくさんの人だかりが出来て「けっこう、けっこう」と大騒ぎ!

この騒ぎを聞き、一人のおじさんがかけつけました。

おじさん
「こら!おめえ、こんなところで何してんだ?みんな大騒ぎしてるじゃねえか!」

係長
「どうもこうも、みんなおれの酒が飲めねえんだとよ。」

おじさん
「おめえ、何いってんだ?おらあ、てっきり野犬でも入ってきたんじゃないかと心配してきたんだぞ」

係長
「野犬?あんたこそ何言ってんだ!おれは今この店で一杯やってるところだ。おれはただみんなに酒をすすめてただけだよ。でもだ〜れもおれの酒を飲まないんだよ。それでちょっと頭にきただけだよ。」

おじさん
「おめえ、相当酔っ払ってるな?人間と鶏の区別もつかねえようだな。全く鶏相手に酒をすすめてたのか?!」

係長
「なに?鶏だと?ここは居酒屋じゃないのか?」

おじさん
「ほれ、よ〜く目を開いて見てみなよ。ここはわしの経営する養鶏場だ。」

係長
「・・・鶏。なんだ、鶏だらけじゃないか!」

おじさん
「んだ。ようやくわかったか。」

係長
「ていうことは、おれは、さっきから鶏相手に酒すすめてたってことか?」

おじさん
「そうだ。」

係長
「どうりで、けっこうけっこうって」

おじさん
「鶏がけっこう、けっこう言うのは当たり前だべ。おめえさんみたいのが突然入ってきたら鶏だって本当にもう結構だって思ってたべ。」

係長
「・・・」

おじさん
「よ〜く頭でも冷やしてけ!全くこんな夜中に、変な人もいるもんだ。人騒がせな、鶏騒がし野郎だ!」

係長
「・・・」

おじさん
「おめえさん、かあちゃんいるんだろう?こんなんじゃ、かあちゃんがかわいそうだなあ。」

係長
「・・・すみません。」

おじさん
「やっと正気に戻ったか。じゃあタクシーでも呼んでやるから、ここで待ってろ!」

しばらくすると、タクシーがやってきて、係長はすっかり小さくなってしんみりと帰っていったそうです。

そして係長の乗ったタクシーに向って言うように、鶏の鳴き声が聞こえました。
「けっこう〜!」

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