村は大パニック! |
この話しは中部地方の山沿いにある1350人ほどの小さな村の出来事です。 小さなお店屋さんでのお話です。 この店のおかみさんと友達が立ち話をしているところへ村では評判の電波発信おばさんが通りかかったことが今回の一大事の始まりでした。 まさか、この中年のおばさんからのうわさであんなことになろうとは誰も想像していませんでした。 お店の中で立ち話をしているのを見て、電波おばさんは、なにくわぬ顔をして店の中に入ってきました。 そしていかにも何か選んでいるふりをして、二人の話しを盗み聞きしていました。 あっちやこっちと商品を見るふりをして、10分ほど店内にいたが、特に何を買うでもなく、そのまま自転車に乗って帰っていきました。 その日の夕方頃から、この村の近くの町や村へと電波おばさんの噂話がひろまっていたことはこの村の人たちはまだだれも知りませんでした。 そしてその話しが大パニックを起すとは・・・ 異変が始まったのは、次の日の夕方4時頃からでした。 村で一番大きい原っぱのような、5万人くらい人が集まってもまだまだ余裕があるという感じのとても広い公園がありました。 その公園に向うための車と人で、昼頃から車が大渋滞、人はどんどんやってきました。 なにせこの村に入るには2本の村道しかなく、この村にこんなに人が集まることなど考えていなかったから大変な状況です。 この村の人たちは、村が始まって以来の人出に驚き、他からやってくる人達に聞いて見ました。 「この村で何かあるのですか?」 村人からそのようなことを言われてびっくりした様子で「何も知らないのですか?この村の人が何にもわかってないなんて困ったもんですね。なんでも、この村に東京から偉い人たちがやってきて講演を開くと聞きましたが。環境問題とか、文化のこととか色んなお話があるみたいですよ。」 それを聞いた村人は「ほう、そうなのかい?東京からそんな偉い人がくるんだったら、おれたちも聞きたいなあ。みんなにも知らせなくてはな。」と急いで村中に知らせに行きました。 この村の人達もやっと情報を知り、おらも、おらもと大パニックになりました。 あの小さな店のおかみさんの耳にもうわさは入り、友達と「へえ、この村にそんな偉い人が話しにくるんだって?なんで今日は夕方からあの原っぱに行く人達でごったがえしてるのかと思ってたわよ。あそこでやるなら、5万やそこらの人が集まっても不思議はないものね。」「そうね」と話しをしていました。 店のおかみさんも「ちょうど良かったわ。今日朝から家の親も東京から来てるから、みんなで一緒に話しを聞きにいこうか!」と、親にこの話しをしてみました。 すると親も「そんな偉い人達がこんな小さな村へ来るなんて、本当?そういえば、今日この村に着いたときから、ずいぶんと活気があるのだなあと思っていたけど、そういうことか。今日はそんな偉い人がくるんだ。この村もまんざらじゃないかもしれないね。日本の将来や文化はこの村から始まったりなんかして。」 と高笑いをしていました。 この異常なほどの人出に商店はだまっていませんでした。 我先と、ジュースを売る者、弁当を売る者まで登場するありさまです。 「このままの人出でいけば、この村も日本で有数の金持ち村になるんじゃない?」 「そうかもな」 とまわりで言い始めました。 しかし、夕方5時になっても偉い人はきません。 6時になっても偉い人がくる気配はありません。 集まった人達は「これは変だ、どうしたんだろう。役場で聞いてこようか。」とかざわざわと騒ぎはじめました。 店のおかみさんの話しを盗み聞きしていた電波おばさんも偉い人が一向にこないのでこれはおかしいと思い始めました。 そして事情を聞こうと店のおかみさんを探し始めました。 やっとの思いで見つけ出すことができたので、店のおかみさんに問いただしました。 「東京から偉い人が来ないじゃないの!一体どういうことなの?」 店のおかみさんは「何のこと?」と全く意味がわかりません。 すると電波おばさんは「昨日、店先で友達と立ち話してたじゃないの。東京から偉い人が来て講演するとか言ってたじゃないの!」と言いました。 店のおかみさんは「私そんな話ししてないわよ。」とわけがわかりません。 電波おばさんは「私はちゃんとこの耳で聞いたよ!東京から来るって。偉い人がくるって。」と言いました。 店のおかみさんは「何言ってるの?偉い人、偉い人って、もしかして私の親のこと?私の親の名前は江来(えらい)という名前だけど、それを勘違いしたの?」とあきれていいました。 電波おばさんは「それなら、講演とか話しとか言うのは?」と聞きました。 店のおかみさんは「講演?こうえん・・・あの広い公園はなつかしいからのんびりできるって話してたけど、そのこと?それに、話し?はなし・・・あっ、歯無しのこと?私の親はもう歯がないから歯無しって言ってたかもしれないね。」と昨日話していたことを思い出しました。 電波おばさんは自分の勘違いをまだ認めようとせずにさらに聞きました。 「じゃあ、環境とかいってたけどそれはどういうことなの?」 「環境?かんきょう・・・ああ、私の親もだんだん年を取ってきて腸の具合があまりよくなくて、時々浣腸(かんちょう)のお世話になってるっていう話しのこと?」とおかみさんは話しました。 電波おばさんは、すべて自分の勘違いだとわかって何も言えなくなりました。 するとおかみさんは急におこりだしました。 「ってことは、あんた、私達の話しを盗み聞きしてたんだね。じゃあ、この騒ぎはあんたの間違った噂から出たことなんだね!一体どうするつもり!」 電波おばさんは急にコロッと態度を変えました。 「わたしは何のことだか知らないわ。盗み聞きなんてしてないし、何もしゃべってないわよ。わたしのせいじゃないよ〜。」 事情を知ったおかみさんはすっかりあきれて「この騒ぎどうするつもりなの?」と電波おばさんの方を見ました。 するとすでに電波おばさんはその場にいませんでした。 すきをねらって、こっそり何事もなかったようにいなくなっていました。 おかみさんは自分の話しを盗み聞きされ、適当に広められて、大勢の人達をパニックにまきこんだことを目の当たりにして、本当世の中は恐ろしいと感じました。 あれから10年がたつが、あの電波おばさんはあの日以来姿を見せることはありませんでした。 そして今ではそんなばからしい話しが笑い話となって語り継がれているそうです。 |
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