おじいちゃんの残した宝 じいじ&ばあばホームへ
交通の便の良くない山奥の町でしたが、近年になり住宅が押し寄せ、山を削り、谷を埋め、地をならして、開発が進みはじめました。

そんな山奥の町の山の上に小さな小屋がありました。
おじいちゃんとその孫の男の子、たった二人で住んでおりました。
男の子の両親は既に亡くなってしまい、おじいちゃんが孫の面倒を見ておりました。

おじいちゃんと孫は、いつも一緒で仲良く、楽しく過ごしておりましたが、最近、山の下に住む人達があまりこの二人のことをよく思っておりませんでした。

「なんで、山に住んでいるんだ?下におりて生活した方が便利だろうに。」と何度もおじいちゃんに説得にきます。

おじいちゃんだって、下にいた方が何かと便利であることぐらいは感じていました。
しかし、おじいちゃんは、下の方で開発が進み、この山までも切り開き、住宅を建てるという話しには賛成できませんでした。

開発業者や下に住む人達はあまりにも頑として応じないおじいちゃんを見て「本当に困ったじじいだ!何とかしないと!」と口々に話していました。

下に住む人達の言い分では、この山を切り開き開発すれば、自分達の不動産価値が上がり、町も活性化し、みんながいい思いをするということでした。

しかし、おじいちゃんは決して首をたてにふることはありませんでした。

開発業者の人は、お金で解決しようと、大金を積み、おじいちゃんに交渉しました。
「おじいちゃん、お願いですよ。お金もこの通り出しますし、下に家も用意しますので、ここを引き払っていただけませんか?この小屋があるばかりに、開発ができないんですよ。それに下の人達も不動産の価値が上がると喜んでいるんですよ。おじいちゃんにとってもチャンスじゃないんですかねえ。」

おじいちゃんは、そんな言葉には決して揺るがされることはありませんでした。
「おれは、大金や立派な家を用意されても、絶対下にはおりないよ。」

開発業者は腹立ちまぎれに
「本当にあなたは変わってますね!あなたのせいでどれだけの人が困っていることか、他の人のこと考えたことあるんですか!町の活性化を考えたことあるんですか!もう一度考えて見てくださいよ!」
と強い口調でおじいちゃんに言い放ちました。

どんな強い口調で言われようが、おじいちゃんは、一向に態度を変えようとしませんでした。
「そんなことは問題ではない。下にはおりないよ。」

開発業者は今の段階で説得するのは無理だと考えました。
「一週間後にまた来ますので、その時までにもう一度よく考えておいてください。」

次の日から、下に住む人達がかわるがわるやってきておじいちゃんを説得しはじめました。
「お孫さんのためにも下にきた方がいいんじゃないの?おれたちだってその方が助かるんだよ。」
「ここが開発されて、住宅がいっぱい建てば町も活性化するし、不動産価値もあがるし、みんなにとって幸せなことなんだよ。」

おじいちゃんは、人々が自分達の利益ばかりを考えて、本当の幸せが何かをわかっていないことに淋しさを感じていました。

どんなに説得しても、聞こうとしないおじいちゃんに人々は不満でいっぱいになりました。
「あの、頑固者のじじいがいる限り、この町が発展することもないよ!不動産価値も上がることないだろうね!自分勝手なじじいだよ!」

そして1ヶ月後、おじいちゃんは体調が悪くなり、病に伏してから3日後に亡くなってしまいました。

孫はおじいちゃんが亡くなってしまい、どうしていいかわからずに、山の下に行っておじいちゃんが亡くなったことを話しました。

「何?じいさんが死んだ?」
それを聞いた下に住む人達の何人かが、山の上の小屋へ行きました。

そしておじいさんのなきがらを確認すると、孫に言いました。
「お前はこれからどうするんだ?・・・あれは、何だい?」

そこには頑丈に縛られた箱がありました。
「この箱には一体何が入っているんだい?」

孫はこたえました。
「これはおじいちゃんが大切にしていたものです。何が入っているかはわかりません。」

すると小屋に来ていた人の一人が
「みんなで何が入っているか見てみるか」
と言いながら、頑丈に縛ってあった箱の中を開けて見ました。

箱の中には紙きれが入っていました。
紙には何か書いてあったので、読んで見ました。

「みなさんに迷惑をかけていることはよくわかっている。けれど、私としてはこうすることしかできなかった。ここを開発すれば自然を失うばかりか、木が水を吸うことが出来ずに洪水になるおそれがある。それに、この山の上にはたくさんの人達の命をあずかる水源がある。私一人だけなら、どうにでもなる。でもここの水源がなくなればたくさんの人達の命にかかわる問題だ。ここを開発すればお金がもうかるとか、不動産価値が上がるとか言うけれど、そんな目先の利益のために、自然を破壊し、命に影響を及ぼす問題となることぐらい誰も気付かないとは、本当に残念でたまらない。私が死ねば、みんな喜ぶだろうが、もう一度考えて、みんなが元気で幸せになれるように進んで行くことを願っている。・・・」

人々はこれを見て驚いたと同時に、自分達のおろかさを恥ずかしく思いました。
早速、その紙を持って下に戻り、みんなに話して聞かせました。

下の人達は、その事実とおじいちゃんがみんなの本当の幸せを願って、一人悪者になっていたことを知り、申し訳無く思いました。
そして、自分達が目先の利益に目がくらみ、おじいちゃんに嫌な思いをさせてしまったことを後悔しました。
その日はみんなで話合い、これからは開発を反対することにしました。

後日、おじいちゃんが亡くなったうわさを聞き付け、開発業者が喜んでやって来ました。
開発業者がうれしそうに、町の人達に話しをしようとすると、今までとは何か様子が違います。

「開発反対!」
「開発はやめろ!」
と町のあちこちから聞こえてきました。

開発業者は急に態度が変わった町の人達を見て、頭でもおかしくなったのかと思いました。

開発業者がそう思うのも無理はありません。
つい先日までは
「早く開発してくれ!」
「町の活性化になるよ!」
「不動産の価値があがるよ!」
などと町の人達がとても積極的だったからです。

その日は、開発業者はこの事態が飲みこめずに帰っていきました。
開発業者は、それから何回かこの町を訪れましたが、一向に耳を貸すものがおらず、とうとうあきらめてしまいました。

今では、この町の人達は、おじいちゃんがみんなのために頑張ってくれたことに感謝し、自分達がおろかだったことを反省する毎日です。

おじいちゃんの孫も山の下におり、町の一員として、みんなと仲良く生活しています。

自然が守られ、水源も守られ、洪水などの水害の心配もなく、本当におじいちゃんのことをありがたく思っております。

子供達がのびのびと遊び、自然があふれる、すばらしい町です。
一度この町へおいでください。
きっとこの自然のすばらしさ、人々の心のすばらしさに、心が癒されることでしょう。

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