俺に驚く前に

ああ〜明るくなると、俺も退屈でしょうがないや。 俺の仕事は夜だからねえ。 別に夜勤をしているというわけではないけど、明るいと人目につきやいから静かにしているんだ。 明るいときに見られると、みんな俺のことを目のかたきにするんだよ。 でも、夜になると俺の出番だよ。 暗い方が仕事がしやすいんだ。 ここのおかみさんがトイレに行くのに、せっかく暗いところに、急に電気をつけて明るくするから、俺はびっくりしたよ。 もう朝になったのかと思ったよ。 一瞬、何が起こったのかと思ってじっとしてたんだ。 すると、おかみさんが急に「キャー！」と大声をあげて大騒ぎするんだよ。 あまりにも大声だったから、おかみさん以上に俺もびっくりしてあやうく腰を抜かすところだったよ。 おかみさんは、「パパ！パパ！早く、早く来て！」と必死にだんなさんを呼んでいるよ。 俺は何事かあったのかと思って、あたりを見渡すけど別に変わった様子などないんだ。 ひょっとしたら、俺のことで騒いでいるのかな？ やっぱりそうみたいだな。 おかみさんとだんなさんは俺のことをにらんでいるよ。 「逃げるなよ。」 「パパ、早くして！」 とパパはハエタタキを持ってきて俺をなぐり殺そうとする！ さすがに俺もびっくりしたよ。 おかみさんは、ずっと「キャーキャー」叫んでいるが、俺の方が殺されるかと思って「キャーキャー」叫びたかったぐらいだよ。 なんで、俺を見ただけで「キャーキャー」叫ぶんだろう？ おかみさんは自分の顔を鏡で見たことあるのかな？ 俺だって、初めておかみさんの顔を見たときは「キャーキャー」叫びたいほどだったよ。 よく自分の顔も知らないで、俺の姿を見て騒ぐよなあ。 本当に俺もあきれるよ。 俺が何故ここにいるかって？ そりゃあ、俺はきれいな家にはいかないから、ここは汚いしとっても好きなところだよ。 食べ残しや、後片付けもあんまりしてないし、俺が食べるには困らないからね。 俺のことを嫌う前に、少しはキレイにしたらどうだ？ そしたら二度とこないよ。 あんた誰だって？ まだわからないのかね？ 俺はゴキブリだよ。 人に名前を聞く前に自分の名前を先に名乗るのが礼儀ってもんじゃないのかね。 そうよ、俺はゴキブリ。 ゴキブリの何が恐いんだ？ あんた達の顔の方がよっぽど恐いよ。 俺のことどうこう言うよりも、自分の顔を見てから俺のこと言うんだな。 こんな汚くて、常識知らずの家には何度でもやってくるから、会うのを楽しみにしてなよ。 でもここのおかみさんはちょっと苦手だな。 おかみさんの顔さえ見なければいいだが、俺の方が腰抜かすからね。 でも、ここは食べ物がちらかっているからそれが一番の魅力だね。 おかみさんが整理整頓でもしたら、俺はあきらめるよ。

このページの先頭へ

動物昆虫メニューへ

童話メニューへ

ホームへ