不思議なひょうたん じいじ&ばあばホームへ
「今日は街までバスで出かけましょうか!おとうちゃん、今日はお父ちゃんに任せたよう!」

「ああ、今日は俺の番かあ。じゃあ、かあちゃん、早速これに入れや。」

「ええ、それじゃあ入りますよ。くれぐれもおとうちゃん、静かに、御手柔らかに頼みますよ。」

なんと、おかあちゃんはおとうちゃんが手にもったひょうたんの中へすいこまれていきました。

このひょうたんは世界に一つしかないといわれている不思議なひょうたん。

この夫婦が出かけるときは、必ずといってどちらかがひょうたんの中へ入り、どちらかがそのひょうたんを持っていくのです。

何故かって、それはどこに出かけるにも一人分の運賃や入場料しか払わなくてもすむからです。

今日は、バス賃を浮かせるつもりです。

案の定、おとうちゃんはひょうたんをかかえ一人バスに乗りこみました。
そして、何事もないように一人分の運賃を支払ってバスから降りました。
バスから降りると、人目のつかないところでおとうちゃんはひょうたんを3回なでて、「ほら中から出ろ!」といいました。
するとひょうたんの中からおかあちゃんが出てきました。

そうです、このひょうたんは一旦中に入ったら外からひょうたんを3回なでてもらい、「ほら中から出ろ!」と言ってもらわないと、決して外に出ることができないのです。

二人はこのひょうたんを使って、あるときは海外までの飛行機代を、あるときは新幹線の運賃を一人分しか払わずに、旅行や遊び、買い物などいろいろと利用していたのです。

二人はここ最近、街の中でもチラホラとひょうたんを持って歩いている人を見かけるようになったので、まさかこのひょうたんのうわさがもれて、みんなも人を入れて歩いているのではないかと不安になりました。

そこでひょうたんを持って歩いている人に何気なく聞いてみるのでした。
「そのひょうたんは何だい?まさか人でもいれてるんじゃないだろうね!」
しかし、意外な答えが返ってきます。
「ああ、このひょうたん?なかなかいいでしょう!今流行ってるんだよねえ。」
二人はそう聞いてホッとしました。
「そう、流行りだったんだあ。ああ、いいねえ。いいねえ。」

二人はよく考えて見たら、この不思議なひょうたんは世界に一つしかないことを思い出しました。
この優れもののひょうたんを持っている二人は、何と運がいいのだろうとつくづく思いました。

そして来る日も来る日も一人分の料金で旅行をしたり、娯楽施設を利用したりしていました。

ある日のことでした。
おとうちゃんがひょうたんに入っておかあちゃんが持ち、いつものとおり一人分の運賃で電車に乗りこみました。
調子にのって連日出かけていたおかげで疲れがたまっていたのか、おかあちゃんは電車の中でウトウトと眠ってしまいました。
気が付くともう目的の駅です。
おかあちゃんはあわてて電車からかけおりました。
そしてその日もゆっくりと1日を楽しみ夜遅くになって帰宅しました。

家に帰るとおとうちゃんの姿がありません。
おかあちゃんは家中を探しまわりました。
しかしおとうちゃんはいません。
「まったく、夜遅くまで何やってるんだろう。どうしようもないねえ。まあ、そのうち帰ってくるだろうね。」と眠りにつきました。

次の日の朝になってもおとうちゃんは帰っていません。
「あれ?本当にどうしたんだろう。会社にだっていかなくちゃいけないし、何かあったのかな?まさか家出したんじゃ・・・」
おかあちゃんはやっとことの重大さに気が付きました。

おかあちゃんはよく昨日のことを思い出して見ました。
「あっ、昨日はひょうたんにおとうちゃんを入れて出かけたんだわ!ひょうたんはどこ?ひょうたんは?」
あたりにひょうたんがあるかどうか探したが見当たりません。
「あれ〜?あっ、もしかしたら、昨日電車で眠っていてあわてておりたから・・・そうよ、電車の中においてきてしまったのかもしれないわ!これは大変だわ。駅に忘れ物で届いているかもしれないわ。」

すぐにおかあちゃんは駅に向い聞いて見ました。
「あの〜、昨日電車の中にひょうたんを忘れたと思うのですが、届いておりませんでしょうか?」
駅員さんは「あ〜、ひょうたんなら届いてますよ。こちらです。」と忘れ物置き場へ案内してくれました。
おかあちゃんはホッとして、駅員さんのあとをついていきました。

案内された場所には、何とひょうたんが何十個もありました。
「どのひょうたんですか?」と駅員さんが聞きました。
おかあちゃんは、ひょうたんを見たがどのひょうたんも見た目は似ていて見当がつきませんでした。

そこでおかあちゃんは手当たり次第に不思議なひょうたんにしかわからない言葉をかけました。
3回なでて「ほら中から出ろ!」と。
なかなか不思議なひょうたんが見つからないので、次から次へとひょうたんに声をかけました。
駅員さんはおかあちゃんの様子がおかしいので首をかしげながら、その様子を黙ってみていました。

そしてやっとのことで不思議なひょうたんが見つかったようです。
3回なでて「ほら中から出ろ!」
すると、ひょうたんの中からおとうちゃんが出てきました。
「あ〜よかった!よかった!」
おとうちゃんとおかあちゃんが手をとりあって喜んでいると、一部始終を見ていた駅員さんがやってきて事情を聞きました。
「これは一体どういうことですか?電車の中にひょうたんを忘れたということは、この中にあなたが隠れて電車に乗っていたということですか?それじゃあ、無賃乗車じゃないですか!」

おとうちゃんもおかあちゃんも弁解のしようがなく、正直に謝りました。
しかし、今までたくさん無賃乗車したので許してはくれませんでした。
結局今まで無賃乗車した分と罰金を支払うことになり、普通に払う数倍もの金額となってしまいました。

おとうちゃんは厳重にカギのかかった檻(おり)のような忘れ物置き場に、ひょうたんの中に閉じ込められたまま一晩を過ごしたあげくに、駅員に今までの無賃乗車がばれてしまい、もうひょうたんに入るのはコリゴリだと思いました。

おとうちゃんもおかあちゃんも自分達のしたことを反省し、心を入れ替えることにしました。

今では、あのひょうたんは家の置物としてかざられています。
ひょうたんをみるたびに、自分達がしたことを思いだし反省をしています。
そして、ひょうたんのユニークな形やツヤを眺めながら、ひょうたんは中に入るのではなく、眺めているのが一番だとつくづく思いました。

おとうちゃんとおかあちゃんはひょうたんを見ながら、あのときの私達はばかだったねえと笑って話していますが、何故かその顔は少し悲しいようでした。

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