心を打たれたゲンタ じいじ&ばあばホームへ
「こりゃあ、ひどいキズだ。足がいまにもちぎれそうだな。いったいどうしたことだろう。たぬきさん、たぬきさん。」

おばあさんが声をかけても反応がありません。

「もう死んでしまったのかな。たぬきさん、たぬきさん。」

おばあさんはたぬきの背中をトントンと繰り返したたいていると、たぬきは何とか気がついたようです。

「いったいどうしたんだね、たぬきさん。」

「・・・」
たぬきはしゃべるのもたいへんなありさまでした。

「とにかくこりゃあなんとかしなくちゃあな。」
おばあさんは近くにあった木の枝を取り、たぬきの足に固定しました。
「すこーしがまんしてな。これからわたしの家へ連れて行ってあげるからな。そこですこしゆっくり休んだほうがええぞ。」

そういうとおばあさんはたぬきを抱き上げました。

そしておばあさんの家に行くまでケガをしてつらそうなたぬきに勇気づけてあげました。
「痛かろうな。もうすこしだから、もうちょっとがんばっておくれな。」
たぬきがくるしそうな声をあげるたびに、何度も何度も声をかけてあげました。

こうしてなんとかおばあさんの家へたどりつきました。

「今あったかいものでもつくるから少し口にしたらどうだ。」
おばあさんはたぬきに優しく言いました。

たぬきもやっと意識がはっきりしてきたようです。
「おばあさん、もう心配することないです。だいじょうぶです。」

「いやあびっくりしたよ。たぬきさんが足におおけがをして倒れていたんでねえ。もうわたしのうちまで来たから心配いらねえよ。安心しな。」

「そうでしたか、たすけていただいて本当にありがとうございます。」

「ところでたぬきさんの名前はなんていうんだい?」

「はあ、わたしはたぬきのゲンタと言います。おばあさん、ゲンタはもう家に帰らないとみんなが心配してると思いますので・・・。」

「そりゃあ心配しているだろうが、わたしに気を使うことはねえよ。ここでキズがよくなってから帰ればいいさ。それにこの足じゃあ帰るなんてとうてい無理なことだろうよ。」

「・・・おばあさん、ありがとうございます。そうですね、この足のケガは岩場から落ちてしまい折れてしまったようです。たぶんしばらく歩けないでしょう。しばらくやっかいになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。」

「ああ、もちろん、いいとも。ゆっくりやすんで、よくなれな。」

「ところでおばあさんはここで一人で暮らしているのですか?」

「おじいちゃんと二人で暮らしているよ。」と微笑みながら言いました。

それから数日たってもゲンタは一度もおじいさんの姿を見ることはありませんでした。
ゲンタは一体おじいさんはどこにいるのだろうと不思議に思っていました。

するととなりの部屋から何かゴトゴトと音がしました。
何の音だろうと思って手をついて足をかばいながらそっと戸をすこしだけあけて中をのぞいてみました。
そこにはおばあさんとおじいさんがおりました。

「少しでも食べなきゃだめだよ。がんばらなくちゃ。もう一口食べな。」
よく見てみると、おじいさんは起きあがることができないようでした。

それを見たゲンタはこんな大変な暮らしをしているおばあさんにやっかいになってしまって申し訳無いと思いました。
でも、ゲンタは今はまだ歩くことができません。

しばらくすると、おばあさんがなにごともなかったようにゲンタのところへやってきました。
そしてゲンタに足の具合はどうか?と優しく聞きました。

ゲンタは返事に困ったが、これ以上おばあさんに迷惑はかけられないと思い「ええ、もう大丈夫です。本当に助かりました。」と言いました。

「何を言ってるんだい。この足のどこがだいじょうぶだい?ちゃんと直してから帰ればいいだろうに。」 とゲンタに言い聞かせました。

ゲンタは申し訳無いという気持ちと同時にありがたい感謝の気持ちでいっぱいになりました。

それから3ヶ月ほどたったころ、ゲンタの足もよくなり、家に帰ることにしました。
その頃にはおじいさんの身体はだいぶ悪くなっているようでした。
食べ物ものどを通らなくなってしまい、日に日に元気がなくなっていました。

ゲンタはおじいさんが病気で大変なときにお世話になったこと、ゲンタが何もしてあげられなかったことを考えると申し訳ないとつくづく思いました。

ゲンタはおばあさんに涙ながらに別れをつげました。
おばあさんはあいかわらずやさしく微笑みながら「元気で帰れな。身体には充分気をつけてな。」とまるで自分の子供に言うようでした。

そして次の日のことです。
ゲンタとゲンタのお母さん、お父さんがおばあさんの家へやってきました。

「おばあさん、おばあさん。ゲンタです。」

おばあさんが家の中から目にいっぱい涙をうかべて出てきました。
「おお、ゲンタ。無事に家へ帰れたんだね。よかった、よかった。」

「ええ、おかげさまで無事帰ることができました。きょうはぼくのお父さんとお母さんを連れてきました。ぼくは、おばあさんに色々と助けてもらったことを話したらぜひお礼を言いたいって言うので・・・」

「わざわざ御丁寧にありがとさまです。」

「本当にゲンタがお世話になり感謝しております。何だかおじいさんの身体の具合も悪いというのにゲンタまで面倒を見ていただいて本当に心からお礼を言いたくて・・・」
ゲンタのおとうさんとおかあさんは深深と頭をさげました。
「これはおじいさんに飲ませてあげてください。200年ほど前から重宝されていた水なんですよ。さあ、早速飲ませてあげてください。」
そう言うと、竹の筒に入った不思議な力のあるという水をおばあさんに渡しました。

早速、おばあさんはその水をおじいさんの口元へ運びました。
しかし、おじいさんは自分の力で水を飲むことができませんでした。
おばあさんがおじいさんの口元に少しずつ不思議な水を何度も何度もくりかえしてしみこませてあげました。
そうするうちに、何だかおじいさんの顔色が少しよくなってきたようでした。

それから半日くらいたったときのことです。
おじいさんは目を開け、あたりを見まわしていました。
「おお、おじいさんやっと気が付いたんだね。よかった、よかった。この水を飲んでごらん。」
おばあさんはうれしそうに言いました。
そして、おじいさんは自分で水を一口ゴクッと飲み、おいしそうな表情をしました。

そして翌日になると、おじいさんは今まで寝こんでいたことなどうそのように立ちあがりました。
「ああ、わしは今まで何をしてたんじゃろ。畑に行ってこなくてはな。」
と今にも畑仕事に出かけようとしていました。

その姿を見たおばあさんはびっくりして言いました。
「おじいさんや、あんまり無理せんと。せっかく良くなってきたんだから、少しゆっくり身体を休めてたほうがいい。」

「おばあさんや、わしはなんにも悪くないよう。全然元気じゃあ。」
と本当に元気そうにおじいさんは言いました。

おじいさんのあまりもの変わり様におばあさんは今まで夢でも見ていたような気がしてなりませんでした。
でもおじいさんがこんなに身体が良くなったことに大変感謝しました。

おばあさんはおじいさんにこの不思議な水の話しをしました。
「これは、たぬきのゲンタとそのおとうさん、おかあさんが、おじいさんに飲ませてあげてくれと持ってきてくれたんだよ。おじいさんはもうその時には意識がなくなっていて、もう1週間も眠りから覚めなかったんだよ。それでこの水をおじいさんの口元にしみこませていたら、おじいさんが目を覚ましたんだよ。」

おじいさんはまるでひとごとのように大変驚きました。
「それは本当か!?そんなにわしは悪かったのか・・・わしを助けてくれたそのゲンタと親子にぜひ会いたいなあ。そうだ、おばあさんよ、ゲンタの家まで案内してくれないか。」

こうしておじいさんとおばあさんは山道を3時間ほど行ったところにあるゲンタの家へと向いました。

「ここですよ、おじいさん。」

「ああ、ここか、わしを助けてくれたゲンタの家とは!」

トントントン
「こんにちは、こんにちは。」

すると中からゲンタが出てきました。
「ああ、おばあさん!おじいさんも!おじいさん身体はもう大丈夫ですか?」

おじいさんは、ゲンタとゲンタのおとうさん、おかあさんに大変お世話になったことにお礼をいい、すっかり元気になったことを伝えました。

ゲンタもゲンタのおとうさん、おかあさんも、逆におばあさんにゲンタが助けられたことを話し、感謝していることを伝えました。

ゲンタもゲンタのおとうさん、おかあさん、そしておばあさん、おじいさんは、生きていくにはお互いに助けたり、助けられたりしているのだとつくづく感じていました。

ゲンタ親子と、おじいさん、おばあさんは決して感謝してもらおうと思ってお互いを助けたわけではありません。
そうです、親切や思いやりというのは、人に感謝してもらおうとか、してあげるんだという気持ちでするものではなく、自分の心で感じたことをその人のために自然に行動に出るもので、その結果受けた人が感謝の気持ちや喜びの気持ちを感じるのだということです。

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