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「しんちゃん、しんちゃん」
おかあちゃんは、しんちゃんの小さな手を優しく握り、声をかけつづけました。

するとやっとしんちゃんは目を開けました。
しんちゃんは目に涙をためておりましたが、おかあちゃんの顔を見て少し安心したようでした。

「しんちゃん、おかあちゃんのことわかるかい?」
おかあちゃんはしんちゃんに優しく問いかけました。

しんちゃんはおかあちゃんの目を見てうなずき、小さな声で言いました。
「おかあちゃん、ごめんね。早く元気になっておかあちゃんと一緒に遊びたいな。ねえ、おかあちゃん、しんちゃんはおうちに帰ることができるのう?」

「何言ってるの、しんちゃん!もうすこしで病気が治るのよ。そしたら、しんちゃんはおうちへ帰れるのよ。」

「本当?おうちに帰ったら、またテレビ見たり、一緒に買い物に行ったり、お外で遊んだりできるよね。」

「そうよ、早く元気になって、家族で旅行にいこうね。」

「じゃあ、遊園地とかもいけるよね?」

「そうよ、いけるわよ。」

「ぼく、死なないんだよね?」

「・・・何を言ってるの?」

「だって、昨日ぼくが寝てるとき、先生とおかあちゃんがお話してたの聞こえたんだ。」

「えっ、何が聞こえたの?」

「うんとねえ、・・・・。やっぱり、ぼく何も聞いてないよ。」

「しんちゃん、おかあちゃんには何でもお話してくれたわよね。もうおかあちゃんのこときらいになったの?」

「・・・・・」

「おかあちゃんはしんちゃんのこと大好きだよ。しんちゃんは、おかあちゃんのこと好きなの?きらいなの?」

「・・・ぼくねえ、おかあちゃんのこと大好きだよ。・・・おかあちゃん、驚かないでね。」

「ええ、おかあちゃんは何も驚かないわよ。」

「あのね、ぼくね、・・・あと3ヶ月しか生きられないって本当なの?」

おかあちゃんは返事に困りました。
「・・・だいじょうぶよ。しんちゃんは、先生やおかあちゃんのおはなしをよく聞いてがんばってるからすぐに元気になれるって。元気になったらお家にも帰れるって、お話してたんだよ。」

「そう・・・、ねえ、おかあちゃん。もし、ぼくが死んだら、どこへ行くの?」

「何言ってるの!死ぬなんてこと言うんじゃないの!早く元気になることだけ考えるのよ。おかあちゃんもいつもしんちゃんが元気になれるよう願っているからきっと大丈夫よ。今しんちゃんは病気に勝つためにいっしょうけんめいに闘ってるんでしょう。しんちゃんは強い子だから大丈夫よ。なんたっておかあちゃんの子供だものね。」

「うん、ぼくはおかあちゃんの子供だものね。でも、もし死んでもまたおかあちゃんの子供になりたいな。そうだ、きっとそうだ。死んでもおかあちゃんの子供で生まれてくるよね!?」

「・・・死ぬ、死ぬってしんちゃんは困ったことばかり言うのね。しんちゃんは死なないのよ。しんちゃんには明日があるでしょう?!がんばるのよ!」

「ぼくねえ、おかあちゃんの子供でいたいの。おかあちゃんはぼくみたいな子供はきらいなの?」

「何言ってるの?しんちゃんはおかあちゃんの子供でしょう?!おかあちゃんはしんちゃんと一緒にいるのがとってもうれしいんだよ。」

「ぼくねえ、夢見たんだ。・・・ぼくねえ、死んじゃったんだ。そしたら、おかあちゃんが泣いてたの。ぼくがおかあちゃんに何で泣いているの?って聞いたら、しんちゃん、しんちゃんって泣きながらぼくのことをだきしめてたんだ。おかあちゃんって、ぼくのこと大好きなんだなあって思ったよ。あんまり、しんちゃん、しんちゃんって何度も言うから、ぼく夢から目が覚めたんだ。そしたらねえ、目の前におかあちゃんがいて、ぼくの顔を見て涙を流していたんだ。ぼくの手をしっかりにぎりしめてたんだ。ぼくねえ、夢見たときも、目を覚ましたときもねえ、やっぱりおかあちゃんの子供で良かったって思ってたんだ。・・・おかあちゃんもぼくのおかあちゃんで良かった?」

「あたりまえでしょう。おかあちゃんはしんちゃんのこと大好きだもの。」

「もし死んでもまたおかあちゃんの子供として生まれてきてもいい?」

「なによ、いつまでもおかあちゃんの子供でしょう!?」

それから3ヶ月後、しんちゃんは帰らぬ人となってしまいました。
帰らぬ人となる前日のことでした。

しんちゃんはおかあちゃんの手をにぎりしめて言いました。
「ねえ、おかあちゃん、ありがとう。おかあちゃん、ぼくねえ、少しからだが楽になったような気がするよ。もうすぐ退院できるね。おかあちゃん、ありがとう。」
そしておかあちゃんの顔を見て小さな声で言いました。
「天国ってどんなところかなあ?天国って楽しいかなあ?苦しいのかなあ?」

うつろな目をして、うわごとのようなことを言っているしんちゃんを見て、おかあちゃんはしんちゃんにしか見ることのできない世界が見えてきているのだと思いました。
そして、それがしんちゃんとのお別れが近づいてきたことのあかしであり、悲しみでいっぱいになりました。
そして、それから数時間後に手をにぎりしめたまま、ひとこと「ありがとう」と言って息をひきとったのでした。

早いもので、それから1週間がたちましたが、おかあちゃんはしんちゃんの言っていたことばを思い出していました。

「死んでもまたおかあちゃんの子供で生まれてくるからね。」と・・・
しんちゃんは自分が死ぬってことをよくわかっていたんだね。
本当に優しい子供だったね。
まだ5才で天国へ行ってしまって・・・
ランドセルを背負うこともなくて、本当に短い人生だったね・・・
しんちゃんはおうちに帰ったら一緒に遊びたいって言ってたね。
今まで少しは遊んであげたかもしれないけど、おかあちゃんはしんちゃんにこれといって何もしてあげられなかったね・・・
しんちゃん・・・おかあちゃんのところへいつでも遊びにきていいからね。
そして、ひとりでさびしく天国へ行ってしまったけど、またおかあちゃんの子供として生まれかわってきてね。

天国のしんちゃんへ・・・

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