木の葉が見てた じいじ&ばあばホームへ
ある山奥に梅吉というじいさんと、松というばあさんが住んでおりました。
二人は林業で細々と生計をたてておりました。
冬になって雪が降るまでが一番忙しい時期でした。
まきを集め、小さな畑をこしらえ野菜を作ったり、山菜を取りに行き、干して春までの保存食を作ったりと、毎日毎日大忙しです。
そうしないと春まで生活ができなくなってしまうからです。
また、集めたまきを山のふもとの町まで背負って売ったお金を生活の一部にしていました。

年老いた二人には生活していくのが精一杯という日々を過ごしておりました。
しかしこの二人にも梅作という息子がおりました。
息子がいれば頼もしいと思われるかもしれませんが、この梅作はなまけもので全然働こうとしません。
梅吉と松はどうしたらいいのかと林の中で仕事をしながら二人で話していました。
しかし、梅作は聞く耳を持たずに、二人がいくら何を言っても変わりませんでした。

そんな梅吉と松の困った様子を林の中の木がいつも心配そうに聞いていました。
その木はあんまり梅吉と松が困っているようなので、そんなに梅作がなまけものなのか様子をうかがってみました。
すると、梅作はいい若い者なのに、年老いた梅吉と松の仕事を手伝うわけでもなく、毎日ゴロンと寝転がっていました。たまに起きあがったと思えば山のふもとの町まで行き、梅吉と松がまきを売ったわずかなお金で酒を飲み、酔っ払って帰ってきては梅吉と松にどなりちらしていました。

こんな梅作に困った梅吉と松は毎日毎日梅作のことばかり話していました。
毎日毎日そんな二人の会話を聞いていた木は、何とか二人に手を差し伸べてあげなくてはと思い、何かいい方法がないかと考えました。
そして木はある方法を思い付きました。

そして次の日、梅作は山のふもとへ出かける様子です。
梅吉と松は梅作に聞きました。
「梅作や、どこへ行くんだ?」
すると梅作は怒って言いました。
「うるせえな、いちいち話しかけないでくれ!ほっといてくれ!」
それでも梅吉と松は梅作に少しでもいいから仕事を手伝ってくれないかとお願いしてみました。
しかし、梅作は何故自分が仕事をしなくてはならないのかと怒って出かけてしまいました。

そんな様子を見ていた木は、梅作は本当に困ったものだと思いました。
そこで、早速考え付いた方法を実行することにしました。

梅作が通ると、木は一枚の葉を落とし梅作の背中にくっつけました。
木の葉は、梅作に気付かれないようにそっと背中に貼り付いて梅作の様子をうかがっていました。

何も気が付かずに梅作はスタスタと歩いていました。
その歩き方は、いかにもこの世は不満だらけだといわんばかりのふてぶてしい態度に見えます。

そんな様子を見た木の葉は梅作にささやきました。
「梅作、梅作」

梅作は自分を呼んでいる声がしたのであたりを見まわしました。
しかし誰もいません。
梅作は気のせいだろうと思い、またスタスタと歩き始めました。

するとまた「梅作、梅作」と呼ぶ声が聞こえてきました。
梅作はまたあがりを見まわしましたが、やはり誰もいません。
おかしいなあと思いながらも、また歩き始めました。

するとまた「梅作、梅作」と声が聞こえてきます。

梅作は気のせい、気のせいと自分に言い聞かせながらふりかえらずにそのまま山のふもとへと向いました。

しかしまた「梅作、梅作」と呼ぶ声が聞こえます。

梅作は耐えきれずに誰がいるわけでもないが、大きな声で「さっきからなんだ!うるさい!一体だれだ?隠れてないで出て来い!」と叫びました。

しかしあたりには誰もおらず、シーンと静まり帰っていました。

梅作は気味が悪いと思い、足早にふもとへと向いました。

「梅作や、梅作や、あんまりおとうちゃんやおかあちゃんを困らせたらだめだぞ〜!少し心を入れ替えて仕事を手伝って安心させてあげたらどうだ〜。」

梅作は明らかに自分に話しかけているものがどこかにいるとわかり、大声で言いました。
「うるせえ!だれだ!早く出て来い!」

しかし誰もいません・・・
さすがの梅作も気味が悪くなって、顔が青ざめてきました。

「梅作や、梅作や、おまえはなんで仕事をしないんだ!仕事をするのが嫌なのか?酒を飲むことだけが好きなのか?」

「・・・」

「梅作は、自分がしていることに気が付かないのか?仕事は嫌いだが、酒は飲みたいのか?そんなに酒が飲みたいのか?ならばここに酒がいっぱいあるぞ。」

酒好きの梅作はその声に反応して、「酒はどこだ!?」と一人探しはじめました。

「梅作、ここじゃよ!」

すると梅作の目の前に水溜りがありました。
「これが、酒か?笑わせるな!おれをバカにしやがって!ただの水溜りじゃないか!」
梅作は怒って言いました。

「ははは、それならだまされたと思ってにおいをかいでみたらどうだ?」

酒好きの梅作は、まさかと思いながらも水溜りに鼻を近づけてクンクンとにおいをかいでみました。
「・・・酒だ!これは酒のにおいだ!本当に酒だ!こりゃあ、ありがてえ!」
そう言うと、この水溜りの水を飲み干しました。

梅作はすっかり酔いつぶれてしまい、その場に丸三日寝過ごしていました。

そしてようやく目を覚ました梅作が、何故ここにいるのか不思議に思っていると、そばにおとうちゃんとおかあちゃんが心配そうな顔をして立っている姿が目に入りました。

目を覚ました梅作に梅吉と松はうれしそうに言いました。
「よかった、よかった。三日も帰ってこないから探しにきたらここに倒れていて・・・何があったかは知らないが、せめて命だけは助けてください!と山の神様にお願いしていたんだよ。」

そんな梅吉と松の気持ちとはうらはらに梅作はどなりはじめました。
「なんでこんなところにいるんだ!ほっといてくれって言っただろう!」
そして山のふもとへと向い始めました。

木の葉はその様子を一部始終見ておりました。
そして、こんなどうしようもない梅作だけど、こんなにも心配している梅吉と松が本当にかわいそうでなりませんでした。
それにしても梅作には困ったものだと、とうとう木の葉は怒り始めました。

木の葉は梅作の背中に貼り付いたまま、梅作に向って言いました。
「梅作、梅作!まだ気が付かないのか!おまえのおとうちゃんとおかあちゃんがどれだけ心配してるのかわからないのか!」

そして、木の葉は梅作の目にベタッと貼り付きました。
梅作は急に目の前が真っ暗になり、前へ進むことができなくなってしまいました。
何度も目をこすってみるが、どうしても目に貼り付いているものがとれません。

さすがの梅作もこれには参り、その場に座りこみ、一人泣き崩れました。
「だれか〜!助けてくれ!目が見えないよ〜!お願いだ〜!」

するとその声を聞いた梅吉と松が心配してかけつけてきました。
梅作の苦しそうな姿を見た梅吉と松は泣きながら「どうしたんだ?梅作」と優しく話しかけました。

梅作は「目が見えないよ〜!助けてくれ!」と泣きすがりました。
梅吉と松が梅作の顔を見ると、1枚の木の葉が梅作の目に貼り付いていました。
「なんだ木の葉じゃないか、木の葉なら手でとれるさ。心配しなさんな。」
「木の葉?!」
梅作は何度も何度も木の葉をとろうとしたのですが、まったくとることができません。

それを見た梅吉と松も、木の葉をとろうとしましたがびくともしませんでした。
梅吉と松は「梅作、かわいそうだが、わたしたちにはどうすることもできないようだよ。」と困り果てました。

すると梅作は泣きながら言いました。
「そうか、このあいだからずっと話しかけてきたのは木の葉だったんだな。ごめんよ、おれが悪かった!もう、おとうちゃんとおかあちゃんを苦しめるようなことはしないから、助けてくれ!」

すると貼り付いている木の葉が梅作に向って言い始めました。
「梅作や、本当に今までのようなことはしないか?自分のしてきたことに気が付いたなら許してやる。」

その様子を見ていた梅吉と松も泣きながらお願いしました。
「木の葉様や、どうか梅作のことを助けてやってください!お願いです!」

木の葉は梅作に向って言いました。
「梅作や、本当におとうちゃんやおかあちゃんを困らせることはしないなら、目を見えるようにしてやろう。」

苦しくてしょうがなかった梅作は、わらにもすがる気持ちで叫びました。
「木の神様お願いだ!もうおとうちゃんとおかあちゃんを困らせることはしないよ!お願いだ!約束するよ!」と何度も何度も繰り返しました。

すると木の葉は梅作に向って言いました。
「本当だな、梅作。約束だぞ!もし約束破ったら、今度は一生明かりが見えなくなってしまうぞ!」

「はい、わかりました。約束します!」
梅作がそう言うと、目に貼り付いていた木の葉がハラリととれました。

梅作は目の前が明るくなり、目の前の明るさをありがたく思いました。
そして、どんなときでも心配してくれた梅吉と松の優しい顔を見て、心の底から反省しました。
「木の葉様、本当におれが悪かった。すまない。もうこんなことはしません。」
そう言って木の葉に頭をさげました。

梅吉と松もいままでのことを全て木の葉が見ていて、梅作を立ち直らせるためにやってくれたこととわかりました。
「木の葉様、心配かけて申し訳ありませんでした。これからは梅作も心を入れ替えていくと思います。本当にどうもありがとうございました。」
そう木の葉に感謝の言葉を言いました。

それからというもの梅作は梅吉や松を困らせることはなくなり、仕事にも励むようになりました。
そして、毎日笑い声の絶えない明るい日々が続いたということです。

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