不思議な種 |
昔、大きな川と向き合って へえほー村 と うんだ村 という村がありました。 この大きな川は、人が渡って行くには大変なところで、へえほー村 と うんだ村を行き来することができませんでした。 この大きな川は雨が降ろうものなら、向こうに渡るなんてことはとんでもなく、ますますお互いの交流をはばむ存在となっており、大変困っておりました。 お互いの村ではどうにかして交流しあって、発展していきたいと考え、いろいろと知恵をしぼりあいましたが、なかなかいい考えがうかばないような状況でした。 それでも、全く交流をしてなかったわけではありませんでした。 へえほー村の長老が川岸に立ち、川のはるか向こう岸に向って「へえほう〜!」と呼びかけます。 この声は川のはるか向こう岸まで響き渡りました。 その声を聞いたうんだ村の長老は外へ出て、川岸に立ち返事をします。 「うんだ〜!」 この声も川のはるか向こう岸まで響き渡り、へえほー村に伝わります。 これでお互いの存在を確認しあい、交流を行っていたのです。 この掛け声は、たいてい毎朝行われ、お互いの声を聞くことで無事一日が始まり、仕事に精を出すことができたのです。 しかし、この掛け声以外に何かを話したりすることはできませんでしたし、ましてや物と物を交換するなんてことは無理でした。 こうして、お互いに掛け声以外の交流をすることができないまま月日がたちました。 ある日のことでした。 へえほー村の長老のところに、見たことのない老人が現われました。 身なりはみすぼらしく、突然現われた老人に長老は不信感をいただいておりました。 老人は長老にたずねました。 「川の向こう側に行きたいのだが、どうしたら渡ることができるのだろうか?」 へえほー村の長老は自分達ですら長年悩んできたことを全く知らない人に聞かれて困ってしまいました。 「実は、私達も困っているのです。せめて橋でもあれば向こう側に渡れるのですが・・・もし渡ることができれば、向こう岸のうんだ村とも交流することができ、お互いに活気が出て発展していけるんですが、なにせこの大きな川には全く手のうちようがありません。」 それを聞いた老人は一粒の種を長老に手渡しました。 「長老さん、この種はへえほー村にとって一番困ったことがある時、一度だけ願いがかなうからお使いなさい。二度は使うことはできないよ。たった一度だけ願いがかなうから、この時だと思った時に使いなさい。」 そう言うと老人は立ち去りました。 長老は何が何だかよくわかりませんでした。 「突然来て、どこの誰だかもわからないし、身なりもみすぼらしかったし・・・きっとからかってるんだな。こんな種一つで願いなどかなうものか。」 それから数日後、大雨が降りへえほー村は水につかりはじめました。 この大雨に向こう岸のうんだ村も大変な様です。 なんとかお互いに協力しあいたいと思って、いろいろと考えましたが、やはり解決方法がありません。 へえほー村の長老はその時ふと思い出しました。 「そういえば、あの見知らぬ老人がくれた種・・・確か願いがかなうといっていたが・・・そんなばかな話があるわけないだろう。どう見てもただの種だし・・・」 長老は一人でブツブツつぶやいているうちに、自分がばかにされたのではないかと思いはじめ、むしょうに腹がたち、思わずもらった種をポイと捨ててしまいました。 次の日、村人たちが大勢集まって何かザワザワと大騒ぎしていました。 長老はこの騒ぎに気付き外へ出てみました。 するとどうでしょう、川岸から向こう岸に向って大きな大きなカボチャのつるがのびていました。 カボチャのつるの幅は20mぐらいあり、長さは数kmに及んでいるように見えます。 さらにカボチャのつるはたいらになっていて人が歩くにも問題なさそうでした。 長老は驚くのと同時に、昨日あの種を捨てたことを思い出しました。 「もしかしたらあの種が一夜でこんなになったのかもしれない・・・」 へえほー村の村人たちはみんな「これは、立派なつるの橋だ!一体誰が作ってくれたんだろう?」と口々に言っていました。 しかし、誰がそのつるの橋をつくったのかなど知る人はいませんでした。 すると、村人達は「きっとおれたちの願いがかなったんだ!」と言い始めました。 村人の様子を見ていた長老はやっとあの種のおかげであることを悟りました。 そしてぽつりぽつりと話し始めました。 「実は、みんなには黙っておったが、数日前に見知らぬ老人がやってきて、1回だけ願いがかなうという種をおいていったんだ。その老人は身なりがみすぼらしくわたしはからかわれているのだとばかりおもっていたんだ。それで昨日腹がたってその種を捨てたんだが・・・きっとこのつるの橋は願いがかなうというその種のおかげだろう・・・」 それを聞いた村人たちは、長老を問い詰めました。 「長老!腹を立てて捨てた種から橋なんてできるのか?!」 長老はまたぽつりぽつりと言いました。 「・・・確かにわたしはあの老人のことを信用していなかった。でもあの老人はこの村の事情を知ってみんなの願いをかなえてくれようとしたのではないかと思う。」 村人たちはさらに長老に言いました。 「長老!なぜその老人を大切にあつかわなかったんだ!まったくなんてことするんだ!」 長老も身なりで人を判断したことを深く反省し、不思議な種で長年の願いがかなったことに大変感謝しておりました。 村人たちもそんな長老の様子を見て、長老を責めてもしかたがないことだと思い、長老をこれ以上責めることはありませんでした。 それからというもの、へえほー村とうんだ村の交流はさかんになり、文化も物資もお互いにすばらしい部分を知ることにより発展していきました。 へえほー村の人もうんだ村の人もその老人に感謝をして、村を救ってくれた恩人や神様だと代々語りついでいきました。 長い長い年月がたち、今となっては、海に沈んだのか大きな山となったのか、このへえほー村とうんだ村はまぼろしの村となってしまいました。 しかし、この不思議な種とつるの橋の話は語り継がれており、つるの橋は今のつり橋の原点ではないかと想像されています。 今の時代立派な橋がたくさん作られているが、あの不思議な種があればもっと簡単に橋をかけることができただろうし、文明や流通ももっと発展していたにちがいないでしょう。 しかし、あの老人がたった一粒だけ与えてくれたことによって、人間にヒントを与え、自分達で築き上げて行く大切さを伝えようとしたのかもしれません。 もし、簡単に大きな橋をつくることができたら、努力をすることなく、発展するどころか滅びて行く運命になっていたかもしれないですね。 不思議な老人と不思議な種、今ではまぼろしのお話となっていますが、わたしたちに大きなプレゼントをくれたことには違いありません。 かけがえのないプレゼントをどうもありがとうございます。 |
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