思いやりでいっぱい |
丘の上に広がるお花畑に一匹のミツバチが気持ち良さそうに飛んでいます。 「今日は朝から天気がいいなあ! 空気も透き通っていて、とっても気持ちがいいなあ! お腹も空いたし、レンゲのお花畑に行って見よう! うわ〜、いつ見てもここのレンゲのお花畑はすごいや〜! 地面に大きな大きなじゅうたんをひいているみたいだよ。 どこまで行っても、レンゲのお花がいっぱい!! 本当に最高! ふ〜、お腹いっぱいだ。 あんまりおいしくてたくさん蜜を吸いすぎちゃったよ。 でも本当に気分がいいよ〜! とっても楽しいよ! ルンルンルン♪ あれ?あそこに誰かが倒れてるみたいだけど、こんなところで一体どうしたんだろう。」 ミツバチさんがおそるおそる近づいて見ると、一匹のアリさんが苦しそうにうずくまっていました。 それを見たミツバチさんはびっくりしました。 「あっ、アリさん!アリさん、一体どうしたの?」 アリさんが顔を上に向けると、心配そうに見つめるミツバチさんの姿が目に入りました。 「あっ、ミツバチさん、どうか私を助けてください!実は、仲間と一緒に仕事をしていたんですが、石につまづいて足を痛めて歩くことが出来なくなってしまったのです。私は仲間の列の一番後ろにいたので、誰も私が足をけがしたことに気づかずに先に行ってしまったんです。」 ミツバチさんはアリさんが大変な思いをしていることを知りました。 「そうだったの。それは大変だ!アリさん、ちょっと待っててね。すぐ戻ってくるから。」 そう言うと、ミツバチさんは空へ飛びたちました。 「どうしたらいいのかな?何かアリさんを助ける良い方法はないかな?」 ミツバチさんがあたりをキョロキョロしていると、一匹のカエルさんがピョンピョンはねているのが見えました。 「あっ、カエルさん。そうだ、カエルさんにお願いしてみよう。カエルさん、カエルさん。」 カエルさんがびっくりして空を見上げると、ミツバチさんが呼んでいました。 「なんだね、わしのことかね。ミツバチさん、一体どうしたんだい。」 ミツバチさんは、カエルさんにアリさんのことを話しました。 「実は、この近くでアリさんが足にけがしてしまったの。一人で歩くことができなくて困っているの。 カエルさんにアリさんを助けるのを手伝ってもらいたいと思って・・・」 カエルさんは、大きくうなずいて言いました。 「ああ、もちろんいいとも。それは、アリさんが困っていることだろうなあ。ミツバチさん、アリさんのところまで案内してくれないかね。」 早速、ミツバチさんとカエルさんはアリさんが倒れている場所へと向いました。 少し行くとアリさんの倒れている場所へつきました。 カエルさんはアリさんの苦しそうな姿を見て大変かわいそうに思いました。 「おお、アリさん、大丈夫かね。これは大変だね!よし、わしの背中に乗ってしっかりつかまってごらん。 アリさんのお家まで連れて行ってあげるから。ミツバチさん、アリさんのお家を探してきてくれないかね。」 「うん、まかしといてよ、カエルさん。ここでちょっと待っててね。」 ミツバチさんは、急いでアリさんのお家をさがしに飛び立ちました。 しばらく行くと、何だかザワザワと騒いでいる声が聞こえてきました。近づいて見ると、たくさんのアリさんがいました。 ミツバチさんは、もしかしたらここがあのアリさんのお家かもしれないと思いました。ミツバチさんは様子を伺おうとゆっくり近づいて一匹のアリさんに尋ねてみました。 「アリさん、大騒ぎして、一体何があったの?」 アリさんは悲しい顔をしてミツバチさんに言いました。 「おお、ミツバチさん。実は私達の仲間がいなくなってしまったのです。どこを探しても見つからないし、誰もどこに行ったのか知らないのです。もうどうしていいのかわからなくて、みんなで大騒ぎしていたのです。」 ミツバチさんはそれを聞いて、ここがあのアリさんのお家だということがわかりました。 「そのアリさんなら、あっちで倒れているの。足をけがして、歩けなくなってしまったの。それでみんなとはぐれてしまったんだって。とても困ってるの。」 ミツバチさんの話しを聞いたアリさんたちは大変驚きました。 「えーっ!歩けない!それは大変だ。どうしよう。どうしよう。」 アリさんたちは、どうしたらいいかわからずにあっちへ行ったり、こっちへ行ったり、余計大騒ぎになりました。 ミツバチさんは、アリさんたちを安心させようとオロオロしているアリさんたちに大きな声で言いました。 「みなさ〜ん!心配しないでください。今からカエルさんがここまで連れてきますから待っていてくださ〜い。」 ザワザワが急に聞こえなくなり、あたりは一瞬シーンと静まりかえりました。アリさんたちはお互いの顔を見合わせて、悲しい顔からホッとした顔になりました。 そしてあちこちから、「良かった、良かった」と安心する声がいっぱい聞こえてきました。 ミツバチさんはたくさんのアリさんたちに見送られながら、急いでカエルさんの元へ戻りました。 「カエルさん、カエルさん!アリさんのお家がわかったよ。みんな大騒ぎして、大変だったよ!でもカエルさんが、連れてきてくれるって言ったらとっても安心していたよ。」 ミツバチさんの知らせを聞いてカエルさんは腰をあげて、出発の準備を整えました。 「それじゃあ、急いでアリさんのお家へいこう。アリさん、しっかりつかまっていておくれよ。」 アリさんは足の傷みをこらえながらカエルさんの背中にしっかりとつかまりました。 カエルさんはアリさんを乗せて、ミツバチさんが飛んで行く方向へとはねて行きました。 「そりゃあ、ピョン、ピョン。そりゃあ、ピョン、ピョン。アリさん、どうだい乗り心地は?」 アリさんは、今までの苦しい思いはどこへいったのやら、とても楽しそうな顔をしています。 「うわ〜、まるで空を飛んでいるみたいです。こんなに素敵な乗り物に乗ったのは生まれて初めてです。 とっても気持ちがいいです。」 カエルさんはアリさんの元気そうな声を聞いて安心しました。 「そりゃあ、ピョピョン。そりゃあ、ピョピョーン。」 しばらく行くと、たくさんのアリさんたちが見えてきました。 「おっ、あそこだな。もう少しだぞ。そりゃあ、ピョンピョン。」 カエルさんの背中に乗っているアリさんもみんなの顔を見てホッとしました。 「ああ、みんなが待っている!お〜い!」 心配そうに待っていたアリさんたちにもカエルさんの背中に乗っているアリさんの姿が見えたようです。 「あっ、あいつがかえってきたぞ〜!!」 ピョン、ピョン、ピョン、ピョコ。 「ほうら、到着だよ、アリさん!」 アリさんはカエルさんの背中からゆっくりと降りました。そして、アリさんはカエルさんとミツバチさんに何回も何回もお礼を言いました。 「カエルさん、ミツバチさん、ありがとうございます。命を助けていただき本当にありがとうございます」 「ありがとう!」 「ありがとう!」 「ありがとう!」 たくさんのアリさんたちの声があちらこちらから聞こえてきました。 そして、カエルさんとミツバチさんの姿が遠く見えなくなったあとも、しばらくアリガトウの声が丘中に響いていました。 それから数日後、ミツバチさんはアリさんのお見舞いに行きました。 「トントントン、こんにちはアリさん!」 中から一匹のアリさんが出てきました。 「おお、ミツバチさんじゃないですか?このあいだは本当にどうもありがとうございました。」 ミツバチさんは、アリさんにビンを渡しました。 「今日はこれを持ってきたの。アリさんに早く元気になってもらおうと思ってね。」 アリさんはミツバチさんからビンを受け取ると、不思議そうにビンを眺めていました。 ミツバチさんはニコッと笑いました。 「これはハチミツだよ。ミツバチの仲間もみんな心配していて、力を合わせてお花から甘くておいしい密をたっくさんとってきたの。」 アリさんは甘いものが大好きです。アリさんたちの間でも、ハチミツのことは噂になっていました。とっても甘くて、栄養たっぷりの、おいしい食べ物だと評判です。 「へえ、これがハチミツ!こんなにたくさん!ありがとうございます。きっとすぐに元気になることでしょう。」 ミツバチさんはアリさんがとても喜んでくれてとってもうれしく思いました。 それから更に数日後のことです。 ミツバチさんのところへアリさんがたくさんやってきました。 「ミツバチさん、このあいだはハチミツを届けていただいてありがとうございました。実を言いますと、私達も少しずつハチミツを食べたのですが・・・あんなにおいしいものを食べたのは初めてでした。甘くて、おいしくて!本当に本当においしかったです。あいつもあまりのおいしさにすっかり顔色も良くなりました。すぐに元気になることでしょう。本当にありがとうございました。」 アリさんたちは、わざわざミツバチさんのところへお礼を言いに来たのでした。 次にアリさんたちはカエルさんのところにも行きました。 「カエルさん、このあいだは仲間を助けていただいてありがとうございました。 カエルさんのおかげで無事に家へ帰ることができたと大変感謝しています。それに、カエルさんの背中に乗れて、空を飛んでいるようでとても気持ちが良かったと今でも話しています。もうじき元気に働けるようになると思います。本当にありがとうございました。」 アリさん達は、今までアリ同志で助け合うことしか考えていませんでした。 アリの仲間同志で頑張れば、生きていけると信じていました。 でも、今回ミツバチさんやカエルさんに助けてもらったことで、つくづくいろんな虫たちや動物たちにお世話になっているんだと実感しました。 これからは、アリの仲間だけではなく、生きているもの全ての仲間と仲良く、力を合わせていこうと誓ったのでした。 その後、ケガをしたアリさんはミツバチさんからの贈り物のハチミツのおかげですっかり元気になりました。 そして他のアリさんたちと一緒に、大きな荷物を背負って一生懸命に働いています。 このアリさんたちの働き振りが他の虫や動物たちの間で評判となり、アリさんは『丘の上の配達屋さん』を始めました。 アリさんを助けたカエルさんは、丘の上にある小さな池で楽しそうにゲロッ、ゲロッと歌い、軽やかにピョンピョーンと飛び跳ねています。 このカエルさんの乗り心地が抜群という評判がいつの間にか丘中に広まり、小さな生き物のための乗り物として『丘の上のタクシー屋さん』を始めました。 アリさんを助けたミツバチさんは広いレンゲのお花畑で楽しそうに鼻歌を歌いながら甘いミツを吸っています。 アリさんに届けたハチミツが甘くてとろけてとってもおいしいという評判があっという間に広がりました。 そこで、ミツバチさんはたくさんの仲間においしいハチミツを食べてもらえるように『丘の上のハチミツ屋さん』を始めました。 こうして、丘に住む生物たちは、それぞれの得意なことを活かして、みんなで仲良く、楽しく暮らしています。 今日も丘の上は、自然の美しさと生きる楽しさ、そして互いに助け合うという思いやりでいっぱいにあふれています。 |
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