ひえとお米様 じいじ&ばあばホームへ
昔、山深くやせ細った村がありました。
その村の主食は作物として収穫のあるひえでした。
大変とぼしい食生活でしたが、その村の人たちは食べることに大変感謝をしておりました。
雨の日も風の日も休むことなく、農作業に精を出しています。
「ああ、今日もありがたいなあ。」とひえをおいしく食べます。
「さあこれで、今日も1日の活力が出るわ。」と村人はせっせっと汗を流します。
こうして汗を流して働けることが村人の喜びでもありました。

ところが、この村には食べ物を粗末にする金持ちの大地主様がおりました。
毎日米のご飯を食べているのですが、「何でこんなうまくない米の飯を食べなくてはならないんだ。」と言ってはポイッとご飯を捨ててしまうのです。

こんなことをしていたものですから、お米様がみのがすわけがありません。
「なんで、食べ物を粗末にするんだ。このばちあたりめ。」

それからというもの金持ちの家ではすっかり様子が変わってしまいました。
「さあ、飯でも食うか。」と茶碗を持ち上げると中身は米のご飯から、ひえに変わってしまいました。
「ありゃ?なんだ、なんだ。今まで米の飯だったのに、なぜひえに変わってるんだ?・・・もしや、あの貧乏百姓たちが俺様の米をひえと取替えて行ったにちがいない。」

金持ちの大地主は血相を変えて、貧しい生活をしている村人のもとへと向いました。
「おい!おまえたち、俺様の米を持っていったな。俺様の家にひえなどあるはずがないんだ。そんなにおまえたちは米が食べたかったのか!?食べたかったら自分達で米でもつくればいいだろう!そうしたら米を食べれるだろう?!」
金持ちの大地主は村人をばかにして言いました。

「何を言ってますか?おれたちは貧乏でも人の米なんか盗むわけないです。」

「じゃあ、何でこんな貧乏なところに米の飯があるんだ?!」

「はあ?何を言ってるんです?これは米ではなくて、全部ひえですよ。」

「うそ言うな!中身をみせてみろ!」

「そんなに言うなら、どうぞ見てください。」

金持ちの大地主が中身をのぞくと全部ひえでした。
「・・・」
金持ちの大地主は頭をひねりながら家へ帰りました。

しかし来る日も来る日も金持ちの家では米の飯をたいてもたいても、食べようとするとひえに変わってしまいました。

一方、村人たちはひえでも毎日「ありがたや、ありがたや」と手を合わせて、今日も無事生きて仕事が出来たことに大変感謝しておりました。

あれから金持ちの大地主は時折村人のところへやってきては、「何で米がひえに変わるんだ?!ひえなど食えたものか!何でだ?!おかしいぞ。おかしいぞ!」と文句を言っておりました。
そんな時、村人の1人が大地主に言いました。
「大地主様、おれたちに文句を言うのはおかしいのではないですか?おれたちは、ひえのごはんをおいしくいただき、とてもありがたいと感謝しておりますよ。ひょっとしたら、大地主様は、今日も食べれることに感謝したり、お米様にありがとうと言ってないのではないのですか?」

それを聞いた金持ちの大地主はたいそう怒って言いました。
「うるさい!俺様がどうしようと、おまえたちに言われる筋合いはない!」

しかし、それ以来、金持ちの大地主は米どころかひえさえも口にすることができなくなりました。
金持ちの大地主は食べるものに不自由して、とうとう自分が貧乏人よばわりした村人のもとへ泣きながらお願いしました。
「俺様は、今食べるものに困っている・・・ぜひ、ひえをわけてくれないか?」

それを聞いた村人たちは、「お金持ちの大地主様の口には合わないことでしょう。それに、ひえだって私達にとっては大切な食糧です。・・・大地主様、少しでも食べることに喜びをもち、仕事することに感謝をして、毎日にこやかに過ごすことをしてきたのですか?私達は、確かに貧しいが、仕事に精を出し汗をかいて食べる食べ物は本当においしいんです。大地主様のように食べ物を粗末にすると、食べられる立場の米やひえだって、嫌になってしまいますよ。きっとそうだ、米もひえも大地主様が嫌になってしまったにちがいない。」

「・・・わかった。わかったから、食べ物をわけてくれ。」

「それなら、大地主様、心を入れ替えて、食べることに感謝して、1日1日元気に仕事が出来る喜びを覚えたほうがいいでしょう。そうすれば、米だって、ひえだって、食べれることがありがたく、おいしくいただけますよ。」

「わかった、わかった。すまないが、もう腹が減って死にそうだ。まずは、ひえをわけてくれ。」

村人はたいそう困った大地主の様子に、ひえをわけてあげました。

金持ちの大地主は早速ひえを持って帰り、煮て食べました。
すると金持ちの大地主はびっくりしました。
「なんて、おいしいんだろう。ひえはこんなにおいしい食べ物だったのだろうか?!・・・今まで俺様がしてきたことは、本当に食べるものをばかにして、粗末にしてきたんだな・・・なんてことをしていたんだ・・・」

それから大地主は反省をし、仕事に精を出し、村人をばかにすることもなくなりました。
それどころか、村人と同じように汗を流して働き、ひえを食べました。
そしてひえを食べるときは、本当においしいと思い、食べれること、働けることに感謝するようになりました。

ある日のことでした。
大地主が、村人のところへニコニコしてやってきました。
「おい、こんなにおいしいひえがたけたぞ。一杯食べてみてはくれないか?」
村人たちは、そんな大地主の顔を見て本当にうれしく思いました。
そして、その日も村人と大地主は一緒に仕事をし、汗を流し、にこやかに過ごしながら、ひえをおいしくいただきました。

その山深くにあるやせ細った村は、人々の汗と笑顔にあふれていました。

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