雪と借りた金 じいじ&ばあばホームへ
仕事もしないで、生活が苦しい、苦しい、なぜこんなに苦しいんだと為造は言う。
それを聞いた賢吉は為造に言う。
「為造や、なぜかもう一度自分の身の回りを見てみろや。仕事もせんで、なぜ苦しいと言うだ。金でも借りてるのか?」

「ああ、金を借りてるよ。」

「なんで金を借りてるんだ?」

「はじめはなあ、こんな少しくらいだったら返せると思って借りたんだ。それを繰り返していたらもうわしには手に追えないくらいになってたんだ。もうどうしたらいいか、この先考えたら夢も希望も湧いてこない・・・わしはどうしたらいいんだい?!」

賢吉は為造の話を聞いてこう言った。
「おい為造や、このサラサラした雪を手で握ってみろや。」

為造は何を言うんだといわんばかりに「何?雪だって?手が冷たくてどうしようもねえよ〜。」

「そんなこと言ってねえで、早く雪を握ってみろや。」

しかたなく為造は雪を握ろうとするが、雪を手で握ることは出来なかった。

「握れんのか?為造。」

「ああ、何故なんだ?」

「ほら、よく見ろ。サラサラした雪は借りた金で言うとまだ手で握るほど大きくならないんだよ。為造が今月もまだだ、また今年も大丈夫という考えと同じだと思わないか?よく考えてみろや。」

それから三日ほどたって、湿った雪が降ってきました。
賢吉は為造を呼び出しました。

「為造や、この雪を握ってみろや。」

「なんでおらに雪ばかり握らせるんだ?」

「いいから、早く雪を握って見ろや。」

為造は嫌々雪を握った。
「ありゃ?なんで雪を握れんだ?おかしいな?三日前は握れなかったのになあ。」

「いいから、今度はその握った雪を雪の上に転がしてみろや。」

「なんでおれにそんなことさせんだ?」
しぶしぶ雪をころがしてみたら、みるみる手で握った小さな雪の玉が大きくなり、倍になり、もう押すことすら出来ないほど大きくなった。
「ほう、こりゃあおもしろいなあ。今日は雪がすぐに大きくなっておもしろいねえ。」

「為造よ、おめえさんが仕事もしないで金ばかり借りていたのもこの雪と同じことだ。」

「なあにいってんだい。借りた金と雪は別だろう」

「為造よ、これでもまだわからんのか?!サラサラした雪は借りた金で言えばまだ小さくてたいしたことないと感じるんだ。でも湿った雪は手で握り締めることができるほど、少しの借りた金が集まったことと同じだ。そしてその集まった借りた金は雪の上を転がして大きくなる雪だまと一緒で、ひとりではどうにもなんねえ。おめえさんの知らないうちに、いろんなものがくっついて大きくなってるんだ。サラサラした雪のように借りた金が小さいうちなら、仕事をしていれば何とか返すことはできるが、手におえないほど大きくなったらもう無理だべ。大丈夫大丈夫と思っていたら取り返しがつかねえことになるぞ。それよりも、毎日毎日せっせっと仕事に励まなくてはだめだ。」

「賢吉よ、おらあやっと金を借りるということが大変なことだってわかった気がするよ。おらに教えてくれてありがとう。でもこの先心配だなあ。」

「心配しててもしかたないから、ほら、明日に向って頑張るだけだ。苦しみや傷は小さいうちに頑張れば大丈夫さ。明日は開けるさ!なあ、為造頑張れや!」

それから為造は毎日毎日仕事に精を出すようになり、借りた金を少しずつ少しずつ返していったということです。

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