クワの音 じいじ&ばあばホームへ
太郎平じいさんは、貧乏ながらもせっせっとクワで朝早くから夜遅くまで畑を耕しておりました。
そのクワの音は、サクサクと、「太郎平じいさん、頑張れよう!」と声が聞こえてくるようでした。

金持ちの欲平じいさんは、何しろ金がたくさんあるので、畑の土を粗末に扱っておりました。
そして、太郎平じいさんに、「そんなに仕事したってむだだ。おらは、黙ってたって金はあるし、クワだってこんなに立派なもんだ。何やったっておらにかなうわけねえだ。野菜だって黙ってても売れるし、何にも心配ねえ。」と自慢をする毎日でした。
しかし、欲平じいさんは、仕事をおろそかにしていたので、農作物は見る見るやせていきました。
それでも、欲平じいさんは、「他に農作物が豊富にあるわけでもないし、黙ってても野菜は売れるから、金は入って来るし!ワッハッハッ」と高らかに笑うのでした。
そんな日々を過ごすうちに、欲平のクワの音もカッチン、カッチンと変わり、土地もやせてきました。 それでも、欲平じいさんは、いばった態度でした。

それとは反対に太郎平じいさんは、毎日努力していたおかげで、クワの音が「太郎平よ、欲平に負けるではないぞ!」と応援するようにサクッサクッ、サクッサクッと、今までなかったほど心地よく響いていました。

この太郎平じいさんの農作物は、あまりのおいしさにあちらこちらで評判となりました。
「早く私にも野菜をわけてくれないか」と仕事もたいへん忙しくなりました。
太郎平じいさんも、みんなが喜んでくれる顔を見て、さらに頑張りました。
太郎平じいさんの頑張りに、クワも負けないほど元気になり、一人で飛びあがるような勢いでサクッサクッといい音を響かせました。

太郎平じいさんの野菜を食べた人は、何でこんなにおいしいんだろうと不思議に思っておりました。
何か太郎平じいさんに秘訣でもあるのかと思い、聞いて見ました。
すると太郎平じいさんは、「いいや、秘訣など何もないさ。ただ、クワや土地、食べてくれる方に感謝の気持ちでいっぱいで、ただただ一生懸命働いてるんだ。」と照れくさそうに言いました。

その頃、欲平じいさんの農作物はすっかり売れなくなり、なぜ売れないのかと頭をひねっておりました。
欲平じいさんは気付いていないようだが、土地がすっかりやせ、出来た農作物も貧相なものだったのです。
しばらくすると、欲平じいさんのところへも太郎平じいさんの評判が届きました。
欲平じいさんは血相を変えて太郎平じいさんのところへいきました。
「まさか、そんなおいしい作物ができるはずはないべ。」と。

しかし、欲平じいさんは太郎平じいさんの畑を見て驚きました。
肥えた土地に、今まで見たこともないような立派な作物ばかりが育っていました。
「何で、太郎平のところだけ、こんな立派なものがつくれるんだ。こりゃあおかしいぞ。そうだ、おらの作物が売れないのは、太郎平のせいに違いない!」
そう決め付けると、欲平じいさんは太郎平じいさんのことをうらむようになり、太郎平じいさんの畑にきては文句ばかり言うようになりました。

欲平じいさんは太郎平じいさんの畑へ毎日来ているうちに、太郎平のクワの音に気がつきました。
「頑張れ!太郎平じいさん、頑張れ!負けるな!」とクワが言っているように聞こえます。
欲平じいさんはまさかクワが物を言うわけはないと耳を疑いました。
そして自分の畑へ帰り、今度は自分のクワで畑を耕してみると、クワがガチャガチャと音をたて、「努力しないで、作物は取れねえよ。」と言いました。
それを聞いた欲平じいさんは、ガクッと腰をおとしたままやせた土地にたたずんでいたということです。

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