一粒の豆 |
山奥深くに、作兵という若者がおりました。 この作兵は少しでも世の中を見たいと旅に出ることになりました。 そして、歩くこと1ヶ月が過ぎた頃、気候はさほど良くなく、農作物もこれという物もない、そんな村へとたどりつきました。 作兵は不思議に思い、その村人に聞きました。 「この時期に作物らしい作物が無いようだが、なぜなのでしょうか?」 すると村人は「この辺は気候が悪く、作物に適する物がないのです。」 とさみしそうにこたえました。 この話を聞いた作兵は、何かこの土地に適した物はないかと考えはじめました。 しかし、なかなかいい案がうかびません。 そこで、作兵は、我が家へ帰り、おとうとおかあに大変厳しい地方があることを話し、相談しました。 それを聞いた、おとうとおかあも、何かいい案がないかと考えました。 「そうだ、作兵や。この村で大事にしている豆がある。その豆を持って行ってみてはどうだ。」 作兵はその大事な豆を一粒、おとうとおかあからもらいました。 「作兵や、この豆は大事なものだから、三年は辛抱するんだど。豆がなっても、食べたらだめだぞ。わかってるな。とにかく、大事に大事に三年間、かわいい、かわいいと育ててあげるんだど。そうすれば、その村を助けることができるんだど。」 作兵は、おとうとおかあの言葉をしっかりいだき、またその村へと旅だったのでした。 やはり1ヶ月くらいたって、やっと作兵はその厳しい村へたどりつきました。 早速作兵は、村人に相談をもちかけました。 「わたしにこのやせた土地を三年間だけ貸してくれませんか?」 村人は、こんなやせた土地をどうするのか不思議に思い、作兵を全く変わった男だと思いましたが、 「まあ、いいか。三年間だったら貸してやっか。」 と作兵に言いました。 作兵は大喜びしました。 作兵は、その日のうちに、土地を耕し、おとうとおかあからもらった大事な一粒の豆をまきました。 来る日も来る日も作兵は豆を大切に育てました。 「豆さんよお、無事に育っておくれ。」と、おがむような様子です。 それを見た村人は、口々にうわさしました。 「あの男は変わっているなあ。」 「何か植えた様子もないのに、やせた土地にむかって何かおがんでいるようだ。」 「気でもおかしくなったんでねえか?」 「まあ、ほっとけ〜。」 そしてはじめての秋がきた頃、村人は大変驚きました。 なんと、やせた土地に一本の豆の木が生え、その木の枝からたくさんの豆がぶらさがっているではないですか。 村人は、「ああ、そうか、あの男は、豆を育てて食べるんだな。」と納得しました。 しかし、幾日たっても作兵は豆を食べようとはしません。 そしてあいからわず、豆の木にむかって大切そうに、かわいい、かわいいと声をかけ育てていました。 村人は、すっかりあきれかえりました。 せっかくたくさんの豆が出来たのに、何も食べないなんて、ばからしいと。 あくる年、作兵は一粒の豆から数百粒の豆が出来た喜びで、また春に、その数百粒の豆を植えました。 そして、毎日毎日、雨の日も風の日も大事に大事に手をかけて育てていました。 大切に育てられている豆たちも、作兵の気持ちを感じてか、とてもうれしそうに見えます。 そんな様子を見た村人は、作兵が豆がなっても食べないのに、またたくさんの豆を育てているので、本当に変な男だと思っていました。 そして三年目にもなると、豆は大変な量になりました。 作兵は、豆に願いをこめていいました。 「ああ、もう少しだよ。豆さん、今年も頑張ってくれや。」 やがて、作兵が持ってきた一粒の豆から村一面が豆畑となりました。 しかし、村人は食べもしない豆をひたすら作りつづけている作兵が、ただのまぬけな男としかうつりませんでした。 村人がどう思おうとも、作兵は、1日も休むことなく豆作りに精を出しました。 そして三年目の秋がきて豆の収穫をすることになりましたが、作兵一人で作業するには手におえませんでした。 村人は、見事な一面の豆畑を見て、はじめて作兵に声をかけました。 「すんげえ豆がなったなあ。」 作兵はニッコリ笑っていいました。 「これも私に土地を貸してくださった村のみなさんに感謝します。どうもありがとう。」 それを聞いた村人は、はずかしい思いでいっぱいになりました。 「おらたちは、作物ができないのはやせた土地のせいだと決め付け、畑仕事に精をださなかった・・・それに比べて、作兵は豆が出来たことの喜びでいっぱいだ。なさけない、なさけない・・・」 そこで、村人たちみんなで作兵の収穫作業を手伝いました。 収穫された豆の量は考えられないほどでした。 村人は作兵にたずねました。 「こんなにたくさんの豆いったいどうするんだい?町にでも売りにいくのかい?」 すると作兵はニッコリわらっていいました。 「いいや、そうではないよう。この豆はおらに土地を貸してくれた村人みんなの物ですよ。来年からは、この豆を村全体に植えて、町で売ったり、みんなで食べたりしてください。この豆は、この村の作物として頑張ってくれるでしょう。やせた土地だって努力すれば、必ず実になるんだなあ。ダメだとおもってあきらめたら、夢がなくなってしまう。夢を持って明日にむかっていけばいいさ。」 そう言うと、作兵は何もなかったように、静かに村をたっていきました。 作兵が村をたった後、村人はようやく作兵が村を救ってくれたことに気が付きました。 そして、これまで作兵のことを変な男だと思ってばかにして見ていたことを、大変情けなく思いました。 それからというもの、この村では、豆がよくとれるようになり、村の特産物として安定した生活ができるようになりました。 そして、秋の収穫祭には、1年無事に豆をつくることができたことに感謝をし、同時に、努力することを教えてくれた作兵に感謝をするようになりました。 作兵よ、ありがとう。 村は笑顔の毎日だど。 |
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