どじょうからのメッセージ じいじ&ばあばホームへ
雪も溶けて、やっとすがすがしい春が来たね。
母さんの御先祖様から言い伝えられた話では、昔は水がとってもきれいで、おいしかったらしい。
今では母さんの住んでいるところは、水が濁って息苦しいね。

(どじょうの兄さん)
そうだね、僕もなんとなく胸が苦しくて、息苦しいと思っていたよ。

(どじょうの母)
一体、どうなってしまったんだろうね。

(兄さん)
何だか、この間5、6人の男の人がやってきて、話していたよ。
このあたりに埋めようかって。

(母)
何を埋めるって?!

(兄さん)
何だかよくわからないけど、産業廃棄物とか何とか言っていたよ。ここなら誰にもわからないだろうって。

(母)
産業廃棄物って何だろうね?

(兄さん)
何だか、あまりいいものではないみたいだよ。だって、身体に悪いとかって話していたもの。

(母)
どうして、ここに埋めるのかな?

(兄さん)
うん、お金がかかるらしいよ。産業廃棄物を安く引き受けて、人目につかないところに捨てたりしているらしいよ。そして上から土をかけて何事もなかったようなふりをしているんだって。

(弟)
そういえば、上流の方でも温泉が出たんじゃないかと、親戚のどじょうのおじさんが言ってたよ。

(母)
本当に温泉なの?

(兄さん)
何か、ブクブク泡が出ていて、変な臭いがしたみたい。

(母さん)
温泉って、変な臭いがするのかね?
もしかしたら、私達が息苦しいのはそのブクブクのせいかもしれないね。
そういえば、この間下流の方へプラッと降りて行った時、人間が大勢で騒いでいたよ。

(兄さん)
何を騒いでいたの?

(母)
「この上流の水は私達の命の水だ!なんで、上流に公害になるものを捨てたり、埋めたりするんだ!われわれの身体の調子もおかしくなってきているんだ。これからの子供達の世界はどうなってしまうんだ!もっと自然を大切にしろ!地球を大切にしろ!」って大騒ぎしてたよ。

(兄さん)
そんな身体に悪い水を飲んだら、病気になることぐらい頭のいい人間様ならわかっているんじゃないの。
それとも、わかっているのに、誰も何もしてくれないの?

(母)
そうみたいだね。
今でも明日の命もわからないのに、子供の世界の心配したってもう遅いよ。
父さんもあんなに苦しがった末に死んでしまったものね・・・

(兄さん)
母さん。
僕、下流へ行って色々調べてくるよ。
どのくらいで帰って来れるかはわからないけど、5回目の桜の花が咲く頃までには戻ってくるよ。

(母)
そう、お兄ちゃん頼むわね。
父さんの死を無駄にしないためにもね。

(弟)
じゃあ、僕は上流へ行って調べてくるよ。
僕は2回目の桜の花が咲く頃までには戻ってくるよ。

(兄さん・弟)
それじゃあ、母さん、元気で!
留守をよろしくお願いします。

(母)
子供達がそれぞれ調べにいってくれたね。

何の問題もなければいいが・・・
いい知らせを待っているよ。
そういえば、他のみんなはどうしてるかしら。
ちょっと様子を見に行こうかな。
あっ、御近所のウグイさんとカジカさん、沢カニさんが集まってお話をしているわ。
こんにちは、みんな揃って何をお話していたの?

(御近所みんな)
ええ、何だか知らないけど最近息苦しくて、身体がつらくてね。
カジカのお兄ちゃんが口からあわをふきながら、苦しんで、もがいて、亡くなってしまったのよ。
それだけじゃなくて、ここ最近は同じように苦しんで、もがいて亡くなった仲間がけっこういるそうなの。

(母)
そういえば、人間同士でもそのことで大騒ぎしていたよ。
何だか、上流の方に人間がとても悪いものを捨てたり、埋めたりしているらしいわ。
ここの水を利用している人間たちの身体も様子がおかしいって話だよ。

(御近所みんな)
人間までが騒いでるなんて、それはよっぽど大変なことだよ。
私達が住むところがなくなってしまったら、どうしたらいいのか。
早くなんとかしなくては大変よ。
人間は自分達の身体だけではなく、私達が苦しんでいることや、仲間が亡くなって、水に浮かんで流れて行く様を知らないようだわ。
それで、うちのおにいちゃんと弟がそれぞれ上流、下流へと様子を調べにいったところなの。

(御近所みんな)
そうだったの。
どじょうさんちの息子さんたちがいい知らせを持って早く帰ってきてくれるといいわね。
本当にそう願っているわ。
それじゃあ、みなさんも十分身体には気をつけましょうね。

やがて、2年の月日がたった。

(母)
そろそろ、弟が帰ってきてもいい頃ね。

(弟)
ただいま、お母さん。
身体の調子はどう?

(母)
ちょっと息苦しいけど、何とか生きているよ。
昔は、子供達は元気に柳の枝や葉につかまったりして遊んだものなのに、最近ではそんな姿は見かけることがないね。
遊べる安全な場所も少なくなってしまったし、子供達の身体の具合もよくないからだろうね。
本当に大変な世の中になってしまったわ。
これからもずっとこんな苦しい思いをして毎日を過ごして行かなくてはならないかと思うとぞっとするね。
自分の死を間近に感じることって気持ちの良いものではないわ。
早く安心して暮らせる日がくることを願っているよ。

そして、さらに、3年の月日がたった。

(母)
もうそろそろお兄ちゃんが帰ってくる頃かな。
ふきのとうも出てきたし、桜の季節にもなったしね。
待ちきれないから、下流の方へ迎えにいってこよう。
・・・ずいぶんと水が汚れている。
あっ、急に水が深くなってきた。
水の流れが固いコンクリートでせき止められている・・・
どうしたことだろう・・・
昔はこんなんではなかったのに・・・
とりあえず様子を見にもうちょっと前へ進んで見よう。
うわっ、どんどん深くなっていくわ。
恐くて下を見れないよ、目が回りそう!
こんなところにお兄ちゃん行ったのね。これじゃあ、帰って来れないかも・・・どうしよう

お、お兄ちゃん〜!!思わず私は叫んだ。
深〜い下の方に向って叫んだので、目がくらくらした。
それでも何度も、何十回もお兄ちゃん!と叫びつづけた。
しかし、お兄ちゃんからの返事は返ってこない。
お兄ちゃんは果して無事だろうか。
考えていても悪い想像ばかりしてしまうので、それを振り払うかのようにまた叫んだ。
お、お兄ちゃん〜!・・・

(ウグイのおじちゃん)
おや、どじょうさん。
びっくりしたろう。
こんなコンクリートでせき止められているなんてね。
これは去年人間がつくっていたものだよ。
そうそう、こんなコンクリートが出来る前に、どじょうさんのお兄ちゃんに会ったよ。
お母さんとの約束であと1年たったら帰るんだってうれしそうに話していたよ。

(母)
本当ですか?!
お兄ちゃんは無事なのね?!
こんなコンクリートでせき止められていたのでは帰るのにも一苦労しているに違いないわ。
どうしよう。
お、お兄ちゃん〜!!

どじょうのお母さんは何度も何度も呼びつづけた。
一向に返事は返ってこない。
しかし、母は来る日も来る日もお兄ちゃんを呼びつづけた。
母自身の身体もむしばまれていくのを感じながら、お兄ちゃんが無事に帰ってくることを願った。
そして、昔のようなきれいな水で家族や仲間と幸せに暮らせる日々を夢見て・・・

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